七変化狸御殿 |
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■公開:1954年 |
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狸の森の狸御殿には家宝の「てるてる坊主玉(巨大なパルックボール)」があるので一年中よいお天気が続いていたが、コウモリ一族が住んでいる谷はしょっちゅう雨が降り、暗くてジメジメしていて、しかもその雨が放射能を帯びていたため、これにあたるとバタバタと死んでしまうという過酷な環境なのだった。 「まったく人間社会はロクなことしないわね」という「平成狸合戦ぽんぽこ」のような社会派のメッセージもあって、なかなか考えさせる映画である、なわけだね。 コウモリ一族の親分・有島一郎は娘の黒姫・淡路恵子を狸御殿の鼓太郎君・宮城千賀子に接近させて「てるてる玉」を奪う計画を立てる。同情すべき境遇ではあるが他人様のシアワセを横取りしちゃイカンよね。 その頃、みなしご狸の娘、お花ちゃん・美空ひばりは、友達のちっちゃい狸・堺俊二と一緒に因業な親方狸の命令で御殿にクルミを売りに行かされていた。 ちょうど御殿では歌謡コンテストの真っ最中、ひばりと堺は仕事も忘れて飛び入り参加、ご褒美にコマドリを貰ってルンルン気分で森に帰ってきたが、親方にこっぴどく叱られるてしまう。そこへ歳くってる割には妙に童顔な森の妖精・高田浩吉があらわれて二人を励ましてくれた。 どうせなら「同情するなら金をくれ」とでも言いたいところだがそういう荒んだジョークは、高田浩吉の「満月のような笑顔」には全然通じないので、ひばりは「ありがとう」と素直に感謝するのだった。 コウモリ一族は鼓太郎を誘拐して「てるてる坊主玉」を身代金として要求。鼓太郎が閉じ込められた謎のガラス瓶を溶かす方法がまぼろしの秘薬であると知ったひばりは堺俊二と共に秘薬の材料を求めて旅に出る。 二人は行く先々で、インチキなオランダ人・伴淳三郎、とその召使いで本物の外人・E.H.エリックとか、まるで歌舞伎役者のような土蜘蛛の怪物・中村時十郎(本職)とか、腹鼓の替わりにドラムが上手な狸・フランキー堺(アドリブ演奏付)、浪曲の上手な森の石松の幽霊・広沢虎造(本職)、チャンバラが得意な清水の次郎長・近衛十四郎、あちゃらか歌わすとやたらと上手い悪親分・川田晴久、などきら星のごとく、いずれもどうでもいいような役どころで登場する人気者たちに遭遇する。 やっとの思いで手に入れた材料を煎じた秘薬が完成し、鼓太郎を救出した美空ひばりは、何時いかなる時でも笑顔を絶やさない自信満々の高田浩吉の応援を得てコウモリ親分をやっつけ、鼓太郎と仲の良い夫婦になった。 美空ひばりを見せることが第一の目的ですから、そのほかの有象無象なんか刺身のツマ以外のなんでもないんですな。松竹は歌舞伎から歌劇団から映画からなんでも持ってっから手持ちのカードを総動員して、顔見せ型お正月映画(封切りは12月29日)である本作品を盛り上げる。 よく出たもんだの近衛十四郎先生ですが、殺陣の出来ない素人相手にゆっくり2回、刀を振り回しただけで即退場だから一応、メンツというかプライドというかそういうのは保てたと思うね。と言うより、そうでもしないと怒って帰りかねないと思うが、ま、そこは社命ですから我慢して出たってところだね。 これに対し、アラビアンナイトのできそこないのような扮装で(しかも森の妖精なんてオトメチックなキャラで、だ)登場する高田浩吉はノリノリ。観ている客のほうがハズカシくなっちゃうが、そのいぶし銀のような美男子顔から放たれる笑顔には観客に照れることを忘れさせるほどのパワーがある。これもひとえに高田浩吉のプロフェッショナルな人柄のたまもの。 特撮はハーフミラーとマットペイントでおとぎ話ムードを醸し出す。セットなんか教育テレビの「おかあさんといっしょ」のほうがなんぼかマシか?というくらいだが、出演者のクォリティとセットの完成度とのギャップが天文学的数値に昇るためそんな些細な事なんか気にすることすら馬鹿馬鹿しい気持ちになるわけだ。 これはミュージカル映画ではない、あくまでも美空ひばりのレビュウ映画。しみじみ昭和の大スタアを偲ぶべし。 (2000年01月09日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16