野良犬 |
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■公開:1973年 |
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この映画の原作は黒澤明監督・脚本、菊島隆三・脚本、三船敏郎主演の映画「野良犬」である。 深夜、人気のない道でOL風の若い女がバイクに乗った二人組みにハンドバッグをひったくられる。抵抗した女性は路上に叩き伏せられた。現場を通りかかった所轄の刑事・渡哲也がバイクに体当りして横転させ、一人を取り押さえたが、直後から乗用車が襲いかかる。 渡はとっさに拳銃を抜き、威嚇射撃を行うが複数の男たちに殴られ拳銃を奪われてしまい、あろうことか、被害者の女性が撃たれて重傷を負ってしまう。 渡の身柄は警視庁の監察官・中丸忠雄の管理下におかれ捜査を外される。いきり立つ渡に対し、正当防衛の確認をとったかどうか冷徹に質問する監察官を制して渡の身元引き受け人を買って出たのは、ベテラン刑事・芦田伸介だった。芦田は現場検証と聞き込みをもう一度じっくりと行い、犯人の足取りをつかもうとする。 芦田の家には、妻・赤木春恵と娘・松坂慶子がいた。犯人逮捕の度にケーキを買ってきてささやかな慰労会をする芦田に対して、「犯人の家族のことを思いやるべきだ」と主張する松坂は、刑事という職業を憎んでいた。 芦田は廃品回収業者の社長が射殺された事件を追っていた。遺体から検出された弾丸は渡の拳銃から発射されたものだと断定された。そこの従業員・財津一郎によれば、共同経営者の妻・千石規子ともども、殺された社長は、採用した若い衆にロクな給料も払わず、コキ使っていたため社長を怨んでいる人は大勢いたらしい。 次の夜、日雇の手配師が、やはり同じ拳銃で殺された。芦田は一見何の関係もなさそうな二つの事件が、「沖縄」「集団就職」というキーワードでつながる事に着目する。 犯人の身元は比較的簡単に判明した。渡の拳銃を使って殺人事件を起していたのは沖縄出身の若い職工たちだった。犯人が沖縄に高飛びするらしいと睨んだ芦田は旅行会社を張り込むが、彼等に気付かれてしまい、渡の拳銃で銃撃され重傷を負う。 重体だったひったくり事件の被害者の女性が死ぬ。責任を感じた渡は、同じく沖縄出身の女工のセンから、彼等が渡の拳銃に残った弾丸で一人づつ、仲間を苛めた連中に復讐している事を知った。仲間うちで次のヒットマン役へ拳銃を受け渡す予定の場所に張り込んだ渡の目前で、芦田を撃った青年が自殺する。あと一歩のところで拳銃はふたたびもち去られてしまった。 芦田に逮捕された青年が仲間の所在を自供する。しかし、渡が逮捕した犯人たちはお互いに励ましあい、決して仲間を売ろうとしなかった。 太平洋戦争中に本土の犠牲になった沖縄が本土に返還されて、職を求め期待に胸をふくらませて上京してきた彼等は、世間知らずを良いように利用され、使い捨て同然の扱いを受けていたのだった。彼等の中にも各々に複雑な事情と感情があることに気付いた渡だったが、芦田が死んだという事実を知ると、犯人たちの最後の一人・志垣太郎を逮捕すべく、後を追った。 沖縄へ戻って、やはり怨みを抱く人間を殺そうとしていた志垣を船上に追い詰めた渡は、抵抗した志垣を射殺した。 搾取された仲間の仇を全員が協力して討つ。別に逃げ隠れするつもりは無い犯人たちが、とにかく仲間に拳銃を受け渡すため、つかまって自供しないために自決までする。 「沖縄」という日本の中の一種の外国に対する偏見や特別な感情、本土の人間のどこかに残っている申し訳無さ。 原作は「野良犬」だけれどもオリジナルから拝借したのは「拳銃が奪われる」というところくらいなもんで、こちらの再映画版のほうは、かなり複雑である。 しかし、だ。どんな事情や理由があるにせよ、他人の生きる自由まで奪ってイイという事は無いのだが、実は犯人たちはそこいらへんも自覚しているフシがあるのだ。自決した青年は単に仲間を救うためではなく、意思をもって殺してしまった人たち、偶然に殺してしまった被害者も含めて、彼等に対してオトシマエをつけているのでも、ある。 芦田伸介がシベリア抑留の経験者であったりするプロフィールも含め、戦争の影が色濃いので、ちょっとイデオロギーのクドさに抵抗感がアリの人も多いと察するけれども、まあ時代がそういう空気だったんだなあ、という事と監督のプロフィールに鑑みて、なんとなく納得して観ましょう。 そうそう「誘拐」で銀座を走った渡哲也が話題になったけれど、本作品では新宿の歌舞伎町、特にガラの悪いコマスタジアム周辺で大がかりなロケをやる。髭面で眼光の異様にするどい渡哲也が激走すると、たいがいの通行人(仕込み含む)はマジで道を譲っていた。 この頃の中丸さんってホント適当な使われ方してんだよな、特に松竹。 (1999年10月09日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-31