白い巨塔

■公開：1966年
■制作：大映
■監督：山本薩夫
■助監：
■脚本：橋本忍
■原作：山崎豊子
■撮影：
■音楽：
■美術：
■特撮：
■主演：田宮二郎
■寸評：

筆者は田宮二郎の熱烈信者なので田宮さん以外の「財前五郎」を認めない、同様に「白い影」の「直江先生」も。

幼い頃父を亡くした五郎・田宮二郎は母親に女手一つで育てられ、後に大阪医師会の有力者である産婦人科の医師、財前・石山健二郎の婿養子となり、浪速医大の助教授になる。財前五郎は天性と努力に支えられた優秀な外科医であったが、バーのホステス・小川真由美という愛人がいて、退任間近い東教授・東野英治郎の後継者の座を狙って手段を選ばぬ男でもあった。

しかし東教授は政治的手腕に長けた財前を快く思っておらず、対抗馬として日本医師界の重鎮、船尾教授・滝沢修の紹介を得た他の大学の助教授・船越英二を後任として推薦する。教授選任の選挙が迫り、なんとしても養子の五郎を教授にしたい義父は徹底的な買収工作でもって対立陣営の切り崩しを行うが、ただ一人、病理学の大河内教授・加藤嘉だけは、医学者としての潔癖さから断固拒否、選挙は混戦模様となる。

財前は親友の里見助教授・田村高廣が担当していた患者を引き受けていたが、病巣の転移を疑って手術前の再検査を強く要求していた佃を無視し手術を強行、一見成功したかに思えた直後、患者の容態が急変する。

肺炎を併発したと診断した財前は、選挙に没頭するあまり処置を助手にまかせっきりにし患者の家族から反感を買う。選挙の結果は財前がわずかな得票差で教授の座を勝ち取ったが、患者は死亡。財前は誤診の疑いで訴えられてしまう。

裁判が始まり、病理解剖を行った大河内教授の証言により財前の敗北が決定的になりかけるが、船尾教授がこれを否定。患者が死亡したのは誤診が理由ではなく財前の良心が足りなかったということになり、財前は裁判にも勝利する。絶望した里見は辞職し大学を去って行った。

　こんな映画を観た後じゃあ、たとえ多少どっか悪くなっても病院へ行く気が全然しなくなりません？

　出て来る医者が片っ端からトンでもない野郎ばっかなんですよ。特にあの、産婦人科の石山健二郎ですか。あんな下品な海坊主に診断してもらうなんて想像しただけでキレるね、私は。医者を見た目で判断するなという意見もあるだろうが、ヤなものはヤなのっ！。

　最後の頼みの綱？の滝沢修も結局「医者が誤診を認めると後がメンドウくさいから」って理由で、大演説ぶっこくわけでしょ？おまけに財前五郎も自分の手術が短時間で終ったからって「お、こりゃ新記録」なんて喜んだりすンのよ。患者としては冗談じゃないっしょ？

　ま、大学病院ってとこで手術なり診断なり受けた方なら経験ありだと思うけど、ありゃもう患者とモルモットの区別なんか絶対についてないね。今度のはデカくて解剖のしがいがあるなあって思われてんじゃないかとか、ロクな扱いは受けないね、それは設備の問題ではなく、医者と患者のインターフェースの問題で。

　田宮二郎、本名・柴田吾郎。同じ「ごろう」だし、若くて才能があってエネルギッシュで不誠実で野心家のキャラクターと、演じた田宮さん本人のその後の人生があまりにも劇的過ぎて、運命的なものを感じてしまうのは客の勝手だけど、あまりにも悲しいよね。

　役と心中しちゃったみたいで切ないのだ。この映画版では死ぬなんて毛頭思ってないでしょ、それがあの「テレビ版」ではなんかこう破滅に向かって突き進んでたんじゃないかって気がしちゃってね。

　どうしても思い出してしまう、テレビ版のリメイクでは、最後に財前五郎が医者としてのセンスにおいても失格したかのように自分の癌に気付かず死ぬ。

　当分、再放送されないかもしれないから田宮さんが主演（他に佐藤慶さんのもある）したテレビのリメイク版を観てない人に教えて上げよう。田宮二郎の熱烈信者であるオジサンオバサンの間で伝説となっている、あのラストシークエンスを。

　死の床についた財前五郎は最後に最愛の人の名前を叫ぶ、それは「おかあさん」。

　田宮さんはこのとき泣いていた。しかもそれは泣こう泣こうとしているのではなく、必死に耐えて泣いていた。田宮さんがこんなふうに泣いているのを見たのは筆者にとってこのときが初めてだったし他では見た事なし。

　財前五郎の遺体はストレッチャに乗せられ白いシーツを頭から被せられて医大の廊下を静かに進んでいく。このシーンは吹き替えでも全然かまわないのに田宮さんは自分で演った。

　田宮さんが事故死（私はあえてこう言う）したのが放送期間中であったため、そのインパクトは強烈でしたね。最終回の視聴率はかなり高い数値だったと聞いてます。もし最終回を目前にしたあの事故が田宮さん本人の意思によるものだとしたら、それってすごく辛いから絶対に認めたくないの。テレビ版では小川真由美の役を太地喜和子が演じてたけど、彼女もすでに亡い。

（1999年12月23日）

【追記】

2003/05/31：テレビ版「白い巨塔」はＣＳ放送での再放送を経てＤＶＤ化されました。

※本文中敬称略

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