「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


上意討ち 拝領妻始末


■公開:1967年
■制作:三船プロダクション
■監督:小林正樹
■助監:松江陽一
■脚本:橋本忍
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■特撮:
■主演:三船敏郎
■寸評:「略奪愛女優」司葉子のキャット・ファイト。


 会津藩、松平家の領主・松村達雄の側室、お市・司葉子が世継ぎ候補のナンバーツーを産んだ後に、家臣で剣豪の伊三郎・三船敏郎の長男、与五郎・加藤剛の妻として「払い下げ」られたのが事件の発端。

 婿養子の身分、しかもその気位という点で天文学的に高ビーな妻が大塚道子という息の詰まるようなプレッシャーに20数年耐えてきた三船としては、せめて長男には「好きで添い遂げた」女を妻にしてやりたい思っていた矢先の出来事である。

 上意は絶対だが、家族も大事。そんな板ばさみに苦しむ三船であったが、は虫類的な側用人・神山繁の慇懃無礼な押しの強さと、家名存続のため渋々もらったこの嫁が実は大当たり。姑(大塚道子、ですぞ!念のため)の強烈な嫁いびりにも笑顔で対応、可愛い孫娘にも恵まれて思いもかけないお宝ゲットに喜んでいた三船一家に、またまた不幸が襲いかかる。

 殿様の長男が急死してしまったので、お市の子供がいきなり次期殿様候補ナンバーワンになってしまったのだ。

 殿様の産みの母が、貧乏家臣の妻というのは世間体が悪いからということで思案した家老・三島雅夫が三船の直属上司・山形勲を使者に立てて、お市を「返却」するように命令してきたのである。

 そもそも、子供製造器みたいな扱いに憤慨したけど我慢して側室になってやったのに、自分の留守中に若い妾を囲った殿様の厚顔無恥なふるまいにブチ切れて、その若い妾ってのがこれまた恥も外聞もないような馬鹿娘だったので、この娘の髪の毛をつかんで引きづり回すというキャット・ファイトの末、びびって逃げ出した殿様に怒りのビンタを入れてしまい大奥を追い出されたお市が、こんな無理難題を簡単に承諾するわけがない。

 ところが、三船の家の次男・江原達怡が家老に命じられてお市に嘘をついて彼女を誘い出し、そのまま座敷牢に幽閉し、側用人らが「承諾しないと三船一族を不幸にしてやる」と脅したので、ついにお市は大奥へ。

 三船と加藤は当然激昂し「江戸幕府に言いつけてやる!」という喧嘩状を家老にたたきつけた。

 最初は強気に怒りまくっていた家老たちであったが、三船の親友である帯刀・仲代達矢が、下手に騒げば隣藩に知れて大事になるから、とりあえずお市を人質にして三船親子に矛を収めてもらうという作戦を進言する。

 屋敷に立てこもった三船親子を説得に行ったお市は、側用人らのスキをついて自害してしまう。

 証拠隠滅を目論んで襲いかかってきた役人たちを皆殺しにした三船は、お市の遺骸をかばって死んだ与五郎とお市を一緒に弔ってやり、孫娘を抱えて江戸を目指して出奔する。

 関所に集合した追っ手を制して、三船の説得を試みた仲代達矢だったが、三船の意志が固いことを知って潔く対決し破れる。孫娘を草むらに隠し、追っ手の大群と三船の壮絶なバトルがスタート、いくら剣の腕が立っても鉄砲には勝てず、三船は敵を全滅させて憤死。

 残った孫娘は、お市の替わりに乳母として派遣されたオバサン・市原悦子が救い出し、何処とも無く去って行った。

 実に、その登場シーンの9割までが「座って喋る」だけの三船敏郎を誰が見たいと思うのだろうか?

 画としてのダイナミズムが全然感じられず、とにかくやたらと説明しまくるので、私としては退屈で何度もアクビが出ちゃったぞ。

 最後の数分「怒る(白目をむいて爆走する)三船」は凄いけど、そこだけ浮いてしまっていて正直な話、三船の熱演が馬鹿みたい。

 で、話がつまらないかというとそんな事は無く、まあちょっと頭でっかちだけれども、その主張には一本スジが通っているし、武家社会の非道さとともに、女性の権利主張を押し出したフェミニズムな時代劇という珍しさがあって面白いと言えば面白い。

 それに、東宝の専属俳優では醸し出せない時代劇「らしさ」については、きちんとした所作や作法を身につけた東映系の三島雅夫や山形勲という押し出しの立派なヴェテランでカバーしているので手抜かりのない、丁寧な作り込みである。

 人間性を踏みにじろうとする諸々の行為や制度にテッテ的に立ち向かう姿は自堕落な毎日を気楽に過ごす私には、圧倒的に感動モノ。家のためとかそういう概念は理解しがたいかも知れないけど、これを会社とかに置き換えればなーんか「似たような」体験が思い当たるのでは?

 ただし、映画としてはとてもつまらないのだ。

 客として映画に期待するモノってあるじゃない?客が怒れない分は三船敏郎がガンガン怒ってくれたりとか、客が懲らしめられない悪者は仲代達矢がみっちりと呪ってくれなきゃ駄目なんだよね、私としては。ただ説教に熱心でエンタテイメントがすっぽり抜けちゃってるんだもん。

 作り手の言いたいことは「現実的」でよく分かんだけどさ、映画にはそういう「夢」の部分も必要なのよね。

1999年11月23日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-31