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死の十字路


■公開:1956年
■制作:日活
■監督:井上梅次
■助監:
■脚本:
■原作:江戸川乱歩
■撮影:
■音楽:
■美術:
■特撮:
■主演:三国連太郎
■寸評:意外な大物俳優がルンペン&チョイ役で登場!


 実業家の伊勢・三国連太郎の妻・山岡久乃は、実母の病気が新興宗教の祈祷で完治したと信じ込み、自宅を教会にして活動にのめり込んでいた。三国はそんな妻に愛想をつかし、秘書・新珠三千代と浮気をしていた。

 ある晩、神のお告げだと言って妻が浮気の現場にナイフを持って乗り込んできた。半気違い状態になっていた妻を止めようとした三国の肘が彼女の頚動脈にモロにハマったため、妻は白目をむいて死んでしまった。誰にも行き先を言わずに外出した妻の遺体を、自分が手がけるダム建設の現場に捨ててこようと決心した三国は、新珠のアパートから遺体を運びだし車のトランクに隠した。

 その頃、銀座では売れない画家・大坂志郎が、妹・芦川いずみのフィアンセ・三島耕と口論になり、三島に殴りかかろうとした大坂が転び、後頭部を強打してフラフラと町中をさまよっていた。

 チンバの娼婦に介抱された大坂だったが、偶然、十字路で事故を起した伊勢の車に入り込み、そのまま息を引き取ってしまった。ダムの近くで大坂の遺体に気がついた伊勢は、仕方なく二人の遺体をやがて湖底に沈んでしまう採石場の井戸に投げ込むが、現場で妻の靴が片方失われていること気付きあたりを必死に探したがとうとう見つからなかった。

 2ヵ月が経過し、実兄の消息を探し続けていた 芦川いずみは、実兄に瓜二つの探偵・大坂志郎(二役)と知り合う。彼は元刑事で、今では情婦と一緒にしがない探偵事務所を経営していた。芦川を追っていた謎の男・小林重四郎を上手くまいた大坂は、かつての仲間で警視庁の警部・安部徹を訪ね芦川の兄の行方を聞き出そうとするがさっぱり手がかりは得られなかった。

 妻の失踪事件の事情聴取のため警視庁を訪れていた三国連太郎が、自分の顔を見て過剰な反応をしたことを見逃さなかった大坂は、新珠三千代に探りをいれ、事件の真相を知り、ダムの建設現場で死体遺棄の一部始終を目撃していたルンペン・澤村国太郎(なんでこんなところに?)を新宿で発見する。

 大坂はルンペンから譲って貰ったと言って、妻のハイヒールを持参して三国を脅迫する。三国は、金を渡すふりをして大坂が隠し持っていた拳銃を奪い、車の中で撲殺する。何食わぬ顔で帰宅した三国を待っていたのは逮捕状を持参した安部徹と、実は刑事だった小林重四郎だった。

 小林は大坂とルンペンの会話を立ち聞きし、新珠のアパートを徹底的に捜索した結果、殺された妻のハイヒールを途中階の乳母車の中から発見していた。大坂が持ち込んだハイヒールは偽物だったのだ。三国が処分に困っていた、芦川の実兄が持っていたシガレットケースが三国の自宅の壷から発見され、万事休すとなった三国連太郎は、新珠に最後の別れを告げ大坂が持っていた拳銃で自殺した。

 その様子を電話口で確認した新珠三千代も絶望し、アパートの窓から投身自殺するのだった。

 二つの死体が、十字路で偶然に起った交通事故で交差し、事件の当事者全員の死を、結果的に招くという、まさに「死の十字路」。

 新興宗教にハマった女房の山岡久乃の、取りつかれたような演技は、これだけ見れば立派なホラー映画になりうるほどの迫力。

 三国連太郎の殺害方法と言えば、概ねその立派な体躯をフル活用した打撃技や絞め技が多いのであるが、本作品ではたぶん立派でまっとうなビジネスマンであるにもかかわらず、妻を不可抗力に近い形で締め殺し、大の男をスパナでボコボコにして殺す。この人、きっと過去に人の一人や二人は殺してるんだろうなあ、と問答無用で認知させる三国連太郎のオーラはすでにこの頃、完成されていたわけだ。

 「飢餓海峡」のオファーがこの作品を見た後に三国連太郎に行ったとしたら、それはそれでエポックメーキングな作品だと言えるかも。ただし、あくまで推測ですけど。

 長門裕之、津川雅彦の実父である澤村国太郎が、仏壇を背負って白い犬を連れているという実にアブナいルンペン役で顔を出す。刑事の安部に「ココ(頭を指す)が足りないんだよ」とまで言われてしまうのだが、ちょっとすっトボケた風情が現在のご子息二人にそっくりなのでかなり笑える。

1999年10月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-30