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憲兵とバラバラ死美人


■公開:1957年
■制作:新東宝
■監督:並木鏡太郎
■助監:
■脚本:杉本彰
■撮影:
■音楽:
■美術:
■特撮:
■主演:中山昭二
■寸評:肩透かし。


 昭和12年、仙台歩兵隊は満州へ旅立った。6ヵ月後、悪臭のする井戸の底から、妊娠5ヵ月の若い女の首と手足の無いトルソ、じゃなかったバラバラ死体の胴の部分が発見される。捜査を開始した憲兵隊は、面子に賭けても犯人を探し出そうと血眼になる。

 被害者が民間人なんだから当然、警察も捜査に加わるべきだと言う定年間近の老刑事の進言は、憲兵隊長・細川俊夫によってあっさり退けられるが、被害者の身元はおろか犯人の手がかりすらさっぱりわからないまま時間が過ぎて行く。

 厳しい箝口令にもかかわらず、事件が新聞に大々的に報道されたため、東京の憲兵隊から敏腕の小坂曹長・中山昭二が派遣されてくる。働き者の部下・鮎川浩とともに仙台に来た小坂は、地元憲兵の反感を危惧して市中の飲み屋へ居候する。

 ある兵隊の証言から、半年前に大きな荷物を持って井戸の廻りをうろついていた恒吉軍曹・天知茂が地元の憲兵隊に容疑者として逮捕される。なかなか白状しない天知は拷問にかけられる。

 警察の協力を得て、独自捜査を続けていた小坂は、死体を切断したのが病院の手術室であると判断し、そこで、死んだ女の霊に導かれるように、古井戸に捨てられた残りの首と手足の白骨を発見。

 先を超されたと思った地元の憲兵隊は意地になって、さらに執拗に天知を責め続ける。

 中山は被害者の顎の骨の歯科治療の跡から、歯医者を特定しついに被害者の身元を割り出す。ちょうどその頃、殺されたはずの天知の情婦がひょっこり現われ、天知の疑いが晴れる。彼は軍用物資の横流しをしようと、夜中にうろちょろしていたのを偶然、目撃されただけだった。

 警察と小坂の地道な捜査により判明した犯人は病院に出入りしていた君塚軍曹・江見渉(後、俊太郎)だった。

 満州へ逃げ延びた江見は脱走して行方をくらませていたが、ついに小坂らに逮捕されたのだった。

 「憲兵モノ」と言えば新東宝ではその陰湿さにおいてカルトな人気があると思うが、本作品はまだ初期の頃なのでそんなにキワへ寄ってはいない。むしろ、ちゃんとした捜査物になっている。もちろん、死体切断とか、逆さ吊の鞭打ちとかのエグいシーンはあるけども、噴き出す血!とか、肉に食い込む刃物!というようなグロいものではない。

 主役の中山昭二はとても表情の固い俳優で、傍にいる鮎川浩の愛くるしさと比較すると、まるで大仏。その生真面目な顔のまま、大学の法医学教室の一角で、被害者の頭蓋骨をじっと見つめて「おまえを殺した犯人は誰だ?」と熱心に問いかける姿は、その普通さゆえにかなり怖い。

 天知茂はその人相からして、絶対犯人であるべき人なのだが、ここでは軍事物資を横流しして女遊びをするというただの小悪党という、ものすごい肩透かしを喰わされる。

 数少ない怪談映画らしいところは、病院の霊安室の窓ガラスと机の上に出現する被害者のオドロな生首くらいで、他は中山昭二と女将のママゴトっぽい恋愛シーンと、初年兵イジメのいわゆる陸軍モノ風のシーンがちょっと変化があるくらいで、刑事ドラマのような聞き込み主体の近代的な捜査ドラマである。

 映画のタイトルだけなら、本作品はスプラッター映画に違いない、そういう思い込みが後で泣きを見るという典型的な作品。

1999年11月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-05