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おーい中村君


■公開:1958年
■制作:大映
■監督:原田治夫
■助監:
■脚本:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:川崎敬三
■寸評:


 中堅電器メーカの営業部員の中村・川崎敬三は生真面目で控えめ。毎朝、通勤電車で一緒になる若い女性に一目惚れするが声もかけられない。しかたなく頭に焼き付いた彼女の似顔絵を部屋に飾ったりする、ちょっとストーカー入ってる純情青年だ。

 ある日、系列工場から後輩の中村・柴田吾郎(田宮二郎)が異動してきた。同姓なのでしょっちゅう間違われる二人だが、川崎と違って柴田はとにかく女に手が早い。手当たり次第に口説きまくって打率10割というプレイボーイ。外見はあんまり引けを取らない川崎敬三(ちょっと背が足りないけどそりゃ柴田吾郎が超ノッポだから)としてはどうも気にくわない、が、面と向かってはなにも言えないのだった。

 おまけに柴田は商売も上手く、高級住宅地でナンパしたお嬢様に高価なエアコンを売りつけたりして、川崎敬三はますます落ち込んでしまう。

 しかし、柴田は調子に乗って部長・潮万太郎とイイ仲の秘書嬢に手を出してしまったため、万太郎パパのツルの一声で、あっさり大阪へ左遷されてしまう。

 柴田吾郎がちょっかい出したスナックの客がたまたまやくざの女房だったため、豆タンクのようなヒモ・三角八郎に人違いされて喧嘩になった川崎敬三は、途中で柴田に間違われていると分かったが、やけくそになって反撃し、二人とも逮捕されてしまう。ところが、偶然にも警察署で出会った婦警・近藤美恵子は、川崎敬三が電車の中で見初めた人だった。

 ライバル会社の情報を得るために新橋の芸者を口説き落とす役目を仰せつかった川崎敬三が逆に酔いつぶされてすごすご帰ってきた。ちょうどその日が川崎の誕生日だったので、約束をすっぽかされて待ちぼうけを喰わされた近藤美恵子はカンカンに。

 友達をかばって闘った(結果的に)勇気に感動し、川崎と兄弟盃を交わした(一方的に)三角八郎は、女房と一緒に飲み屋のバーテンダー、中村・若原一郎と協力し、近藤と川崎を仲直りさせようとするが、頭の固い美人と意地っ張りの優男との仲はますます険悪に。

 潮万太郎が大阪へ転勤することになった。またまた秘書をつまみ食いされてはイカンということで、東京へ呼び戻された柴田吾郎は、着任早々、川崎の後がまとして抜擢され、得意のテクで芸者と懇ろになり評判を上げる。

 芸者買収の一件で川崎と近藤が不仲になったのを心配した柴田は、当の芸者に頼み、柴田が近藤を、芸者が川崎を誘惑しているように見せかけて互いにヤキモチを焼かせ、二人を無事にゴールインさせることに成功。

 二組のカップル、ヒモと女房、エロ部長と愛人秘書は、若原一郎の「おーい中村君」の歌に見送られてそれぞれにシアワセになるのだった。

 川崎敬三は、30代後半のお年頃の方々(これより年齢が下がると誰も知らない)にはテレビ司会者か、または、料理が得意なテレビ俳優というイメージだが、映画に出ていた頃はこのように気弱な二枚目半というのが得意で、それがヒネクレた方向へ転ぶとさらに不気味で、多重構造的な人物を演らせたら上手かった人だ。中途半端な形で消えてしまったけれど、今なら胡椒のピリリと利いたヴェテラン俳優として存在感があっただろうね。

 柴田吾郎(本名)は後の田宮二郎である。

 川崎敬三の「片思いの君」にも平然と食指をのばす、可愛い娘と見ればすっ飛んで行く、バッティングしても全然平気。川崎敬三とは違った種類の「純粋さ」がキュートな柴田吾郎は、これだけやってもなお下品にならないという奇跡のキャラ。

 「おーい中村君」は劇中に登場する若原一郎のヒット曲、と言っても私は生まれる前なので全然知らない。若原一郎だって萩本欽一のシチュエーションコメディ番組で蘇生させられたのを見ただけで詳しくは知らない。

 こういうタイトルと歌詞の歌謡曲が大ヒットして、ついでにこんな明るいコメディ映画ができちゃうという時代、そのものが面白いじゃないの。

 川崎敬三と柴田吾郎がまるで「アリとキリギリス」のようなコンビネーションをみせるが、この物語のキリギリス、柴田吾郎は最後の最後に、自分が犠牲にならない範囲で改心して「結局は善玉」となるのがミソ。

 「懲らしめられるくらいなら改心しなさい」という大人のための寓話(または説教)。

1999年12月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-17