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あっぱれ一番手柄 青春銭形平次


■公開:1958
■制作:東宝
■監督:市川崑
■助監:
■脚本:和田夏十
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:大谷友右衛門(現・中村雀右衛門)
■寸評:走れ!平次、走れ!


 昭和二十八年、東京の日比谷で猫を避けそこなった自動車がショウウインドウへ突っ込んだ!と思ったら、場面は300年前の江戸時代へ。大泥棒が乗った籠が猫の死体におどろいて一膳飯屋に突っ込んだ!大泥棒は、かけだしの岡っ引き、万七・柳谷寛が捕まえて、彼はその御褒美として上役の同心から浴衣を一反、頂戴する。

 ライバルがポイントを稼いでいた頃、岡っ引きになりたての飴屋の平次・大谷友右衛門は、近所の豆腐屋の娘、お静・杉葉子とささいなことで喧嘩していた。平次の子分、八五郎・伊藤雄之助は、叔母・三好栄子(凄いDNA!)の世話になっていたが、いつか平次が有名になってくれると信じて、日雇い仕事とかけもちで走りまわっていた。

 有名な岡っ引きだった父親のように、なんとか有名になりたいと思う平次だったが、黒門町の伝七親分、人形佐七親分、はては若様侍・小林桂樹など超大物の警察関係者がひしめく時代、自分の出番はいつの事かと毎日毎日「御用だ!」の瞬間を夢見てイメージトレーニングに励む。

 そんな平次だったが、顔だちが奇麗なもんだから町娘には大人気。お静とライバル関係のお光・木匠マユリは、美容院ならぬ髪結い床で平次をめぐって恋のバトル。気の強さではドッコイの二人、お光がお静めがけて「あなたみたいな面長な人は、、」と、物凄い発言まで飛び出す始末。

 ひょんな事から投げ銭を思いついた平次だが、いちいち本物を投げっぱなしではモッタイない、と、一文銭に輪ゴムをつけてしまう。なんせ岡っ引きの年俸はたったの二分なのだ。

 江戸で偽小判が出回る。せっかく新型小判を鋳造しても、出したそばから、そっくりの偽小判が出る。正方形、三角形、梅形、ついにはヘビ形小判などと、わけのわからないデザインにまでなったが、所詮、イタチごっこの様相。

 酒樽の中から出て来た死体を糸口に、犯人一味の下っ端・山本廉を捕まえた平次と八五郎。勘定奉行が事件に関与していると読んだ同心・伊豆肇が面通しのために、下っ端を勘定奉行の屋敷へ連れて行くが、彼は何者かに暗殺されてしまった。

 野良猫が飛び込んだあばら屋で、偶然、犯人一味と遭遇した平次と八五郎は、首領の正体が勘定奉行の用人・見明凡太郎であることを知った。やっと訪れた犯人逮捕の瞬間だったが、腰を抜かした平次と八五郎は、開き直った犯人たちに追いかけられる。

 八五郎の通報でかけつけた捕り方の大軍勢を前にして完全にパニック状態となった犯人一味は、盲滅法に平次を追いかけまわし、勢いあまって奉行所の牢屋へなだれ込み、なにがなんだか?状態のうちに事件は解決。平次は御褒美の浴衣生地をお静さんに仕立ててもらって、めでたし、めでたし。

 本作品はキャラクターの面白さに注目すべき。

 主人公の平次はまだ有名になる前だから、すごい貧乏である。豆腐の大きさが小指の幅ほど小さいと言って、将来の女房であるお静と喧嘩になるが「けちんぼう!」と悪態をつかれた平次はすかさず「けちと几帳面の区別もつかないのか!」と言って怒る。

 偽小判を客につかまされたことを苦に自殺した町娘の幽霊のお導きで、犯人一味の手口が「両替詐欺」だと見抜いた平次が乞食に化ける。案の定、小判を恵んでやるから釣銭をよこせという奴がいて、事件解決の突破口を見い出すのだが、この時、乞食への化けっぷりの良さを「さすが役者の血(大谷友右衛門は梨園の出身)は争えねえなあ」と伊藤雄之助がからかう。

 かように、冒頭のシーンからして、本作品はとにかくシャレっ気たっぷりで、平次親分がお出かけのときに火打ち石を探していたら神棚にオイルライターが置いてあったり、煙草盆に紙巻煙草(フィルター付)があったりするという時代考証てんで無視のドタバタコメディー。

 スラップスティックスの基本中の基本である「おっかけ」シーンも充実。追いつ追われつ、大谷友右衛門も伊藤雄之助(この人の走りはいつも芸術的)も、この映画の中で最もニュートラルな存在の伊豆肇も、見明凡太郎も、徹底的に走り回る(走り回らされるが正解)。

 役者の運動神経は大体、走るシーンを見ればわかる。スタミナ、リズム感、バランス、役者は肉体労働者であるから「走りがダサい奴は芝居もダサい」という私の持論によれば、本作品の出演者はほぼ全員、実に素晴しい。

 こんな面白い時代劇、見てない奴は大損だと思うぞ。

1999年11月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16