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冷飯とおさんとちゃん


■公開:1965年

■制作:東映

■監督:田坂具隆

■助監:

■脚本:

■原作:山本周五郎

■撮影:

■音楽:佐藤勝

■美術:

■主演:中村錦之助

■寸評:善人が幸せになる映画。


 山本周五郎原作の3話からなるオムニバス映画。

 第一話「冷飯」。

 武家の四男坊である大四郎・中村錦之助は家督も継げず、分家もされず、実家に居候をしている身分。万事地味で控えめな彼の唯一の趣味は古書の収集。馴染みの古道具屋・藤原釜足の店先で長居をして古書をあさったり、クズ拾い・浜村純と値切りの交渉をしたり。小遣い銭をコツコツと溜めて買った蔵書に埋もれている時だけが彼にとっては至福の時である。

 母・木暮実千代や姉、それに兄たちはいずれも大四郎のことを気にかけてくれる心優しい人達。ある日、彼は一人の女性に恋をしてしまう。養子にならない限り結婚することなど叶わないと知っている大四郎は、すぐ上の兄・小沢昭一から、相手の娘・入江若葉も大四郎を好いていると聞かされ、ますます落ち込んでしまう。

 兄たちから小遣いをもらい生まれて初めて遊びに行った料亭で親切な中居・宮園純子にいちいち料理の値段を心配しながら、それでも精一杯エンジョイしている大四郎の素直な性格と気骨を見込んだ中老・千秋実が、彼を婿にしたいと言い出した。

 そんな事はつゆとも知らない大四郎の蔵書に目をつけた殿様が、彼のコレクションを城の文庫へ献上せよと言う。がっかりした大四郎だったが、その眼力を高く評価され城の書庫係として召しかかえられ大出世を果たす。冷飯の身分かられっきとした武士となった大四郎は五千石の養子縁組をさっさと断わって入江と結婚し幸せに暮らすのだった。

 第二話「おさん」。

 美人だが多情な女、おさん・三田佳子は、夜の営みの最中に別の男の名前を絶叫してしまうという変な癖があった。あきれた大工の参太・中村錦之助は彼女を残して関西へ行ってしまう。おさんが浮気をしているに違いないと思ったからだ。

 旅の宿で出会ったお房・新珠三千代は参太と一緒に江戸へ行きたいと言う。参太は街道でストリートチルドレンをしている少年と知り合い、彼におさんの消息を探らせる。

 参太が出て行ってすぐ、おさんは寂しさを忘れるために、参太の兄弟弟子である辰・佐藤慶と一緒に暮らし始めたが例の性癖のおかげで追い出されてしまう。次におさんは職人・大坂志郎と夫婦になるが、やはりこれも長続きしなかった。

 おさんと別れた後、辰も職人もみな、おさんの事が忘れられずに身をもちくずしてしまっていた。少年が探し出した長屋で、やくざな男の手にかかり、おさんはすでに殺されていた。おさんはただの一度も浮気をしていなかったのである。おさんは男無しでは生きられない性分だったが、最後まで参太の事を愛していたのだった。

 第三話「ちゃん」。

 腕の良い火鉢職人の重吉・中村錦之助は子供四人を抱え、働き者の女房・森光子と暮らしていた。飲んだくれの重吉だったが家族や町内の人々は、良い火鉢を心を込めて作る彼のことが大好きであった。

 馴染みの飲み屋の女将・渡辺美佐子は重吉に惚れていたが、今は静かに暮らしている。ある晩、彼女の店に重吉と、かつての職人仲間で今は流行の安物火鉢を作って独立している友達・北村和夫が一緒にやって来る。友達は、いつまでも伝統工芸のような火鉢を作っていては儲からないと親切に言ってくれるのだが、重吉は納得できなかった。

 収入は減る一方、おまけに酔っ払って家に連れてきた男・三木のり平に着物と米を盗まれてしまい、落ち込んだ重吉は家出をしようとする。家族に見つかってしまった重吉は自分は厄介者だから出て行くと言い張る。それを聞いた長男・伊藤敏隆が、出て行くのはかまわないが父一人では心配だから一緒に家出しようと言う。

 重吉は職人として満足の行く火鉢を作り続ける決心をする。その心意気に感心した大店の主人が、これからは重吉の火鉢を一手に取り扱って売ってやると約束してくれた。重吉は嬉しくなってまた、酔っ払ってしまうのだった。

 各エピソードの冒頭はいずれも主人公である錦之助の背中から入る。この三役を一人でこなす錦之助の技量には圧倒されてしまう。どれか一つ、か二つくらいなら演れる役者はいるだろうが、この不世出の「映画の子」は愛敬のある末っ子、鯔背な色男、のんべえの職人、をいずれも自分の十八番として演ってしまう。

 「ちゃん」で見事な酔っ払いを演じる錦之助、どっかで見たなと記憶の糸をたぐれば、志村けんがコントで演る感じに瓜二つ。観たんだろうね、この映画を、きっと。

 それぞれ小さい話であるが、疲れた心に染み入ってくるような良品ぞろいの映画。

1999年09月13日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-06-23