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大怪獣バラン


■公開:1958年
■制作:東宝
■企画:
■監督:本多猪四郎
■助監:
■脚本:関沢新一
■原作:
■撮影:
■音楽:伊福部昭
■美術:
■特撮:
■主演:野村浩三
■寸評:怪獣残酷物語。


 高名な博士・千田是也の助手・桐野洋雄は、日本ではまず発見されることのない珍種の蝶を求めて調査に赴いたが、突如出現した巨大なトカゲの怪獣がまきおこした落石に当たって死んでしまう。桐野の妹・園田あゆみは新聞記者としての職業意識と兄の死因を探るために、兄と同じ研究所に勤務する研究員・野村浩三らとともに現地へ向かう。

 そこは村人の間で信仰されている「バラダギ様」の聖地。祈祷する村長・瀬良明が止めるのも聞かず、園田あゆみと野村浩三は逃げた愛犬を追った村の子供を助けるという大義名文で禁断の地に足を踏み入れる。途中で野村とはぐれた園田は少年とともに無事だと判明。村人と一緒に救助に向かった野村が神秘的な湖に到着した直後、水の中から「バラダギ様」こと、大怪獣バランが出現する。

 伝説の怪獣にイキナリ対面した人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。ところが園田あゆみは方向音痴の上にトロい女だったためモタモタしてまたもや迷子になり倒木に足をはさまれて動けなくなる。

 そこへノンビリとバランが接近。別に園田を喰うとかそんなつもりは毛頭なさそうなバランを一方的に怖がった園田が金切り声をあげて野村を呼んだために、バランもついつい二人の後を追ってしまうのだった。岩場に追い詰められた二人だったが、やがてオニゴッコに飽きたバランはさっさと湖へ帰ってしまった。

 東京へ戻った野村はバランが町中へ出てくるかもしれないと防衛庁に報告。ただの事故死にすぎないのに「兄を殺したのもバランよ!」とわめく園田の一言も功を奏し、バランに対する総攻撃が決定する。

 湖でノンビリ昼寝をこいていたバランは自衛隊の爆撃を受けヨタヨタと逃げ出す。バランはけばけばしい形のわりに頑丈な皮膚の持ち主だったので、たいていの爆弾は受け付けなかったが、園田あゆみのヒステリー声よりやかましい爆弾の破裂音に参って、ムササビのようなスタイルで大空へ飛び去った。

 広い海の底でこんどこそ静かに暮らせると思ったバランだったが、そこも安住の地ではなかった。雨のように爆弾や爆雷を落とされ、ほうほうの体で逃げ出したバランは、海中からひょいと頭を上げた時に爆撃機に噛みついてしまったり、魚船団とハチ合わせして全滅させてしまったりする。

 「凶悪怪獣」というレッテルを貼られたバランは、やみくもに逃げ回っているうちに、羽田沖に接近。相変わらず止まない爆弾の雨を避けようと陸に上がったバランを、容赦なく攻撃し続ける防衛隊。しかしいかなる爆弾もバランに致命的なダメージを与えるところまでいかない。逃げ惑うだけのバラン。図体がデカいためパニックに陥った彼は周囲の建物を派手にぶっこわしてしまう。

 ただのお荷物としか思えない園田あゆみは野村の恋人という立場を利用してちゃっかり現場取材を敢行。バランを「兄の仇」として付け狙うのだった(ってそんなオーバーなモンじゃないけどさ)。

 防衛本部の博士・平田昭彦(様)が開発した新型爆弾をバランの腹の真下で爆発させる作戦が実行に移される。爆弾を途中まで運んだダンプの運ちゃんがブルって逃げ出したため、すわ作戦中止かと思われたが、ニブくて厚かましい園田あゆみがまたもや現場にしゃしゃり出て野村浩三をはげましたために、民間人である野村がトラックを運転しバランに接近、大事なところで役にたたない防衛本部の作戦参謀・土屋嘉男の号令により、爆弾は予定通り大爆発したが、バランは驚いて目を回しただけであった。

 いつでも冷静な千田博士はバランが「光りモノ」好きであることを発見。照明弾に強力な爆弾を仕込み、バランの頭上へ投下。なにも知らずに次々に爆弾を飲み込むバラン。時限装置により爆弾は予定通りバランの腹の中で大爆発。さすがのバランも強烈なダメージを受け、必死に海の中に逃げ込もうとするが、2発目の爆破によりついに息絶えるのであった。

 突然ですが、役立たずの東宝特撮映画のヒーローは久保明だけではなかったんですね。

 本作品の名目上の主演、野村浩三は実に東宝らしいバタ臭い色男顔でありながら、気の弱そうな物腰故に、園田あゆみにつけこまれいいように利用される。で、この園田あゆみというのは図々しい上にブリッコという性悪を絵に描いたようなキャラクターだったので、お人好しの野村は次第についていけなくなり、山奥に一人でこもってモルフォ蝶の粉を浴び、巨大なモンスターになりましたとさ(「ウルトラQ」#変身、参照のこと。うそ、うそ)。

 そう、桐野洋雄が追っていた蝶こそ幻の「モルフォ蝶」、なわけありませんが。

 かように、本作品を実質上、牛耳っていたのは園田あゆみ扮する女性新聞記者である。彼女の短慮と暴力的なヒステリーにより全ての物語は起こり、そして終結するのだ。

 水煙を上げて沈むバラン。その断末魔を見つめる園田あゆみの勝ちほこったような顔。なに様のつもりだ、この女は!とムカついていたのは私だけかもしれないが、見終った後、これほどまでに怪獣が気の毒に思えた作品は他にないと思うぞ、合掌。

1999年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-12-11