ドリームスタジアム |
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■公開:1997年 |
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今から30年前、将来を嘱望された高校球児・池内博之が、プロ野球チームの南海ホークス(当時)に入団した直後、交通事故で死んでしまう。一度も現役プレイヤーとして活躍できなかった彼の霊魂は未練が強すぎたため、天使・斉藤洋介とともに地上へ舞い戻って来る。 「オリンピックで自分の人生を変える」という途方もない夢を持つ不動産会社の若手営業マンの田沼・萩原聖人は東京ドームでホームランボールを頭に受けて失神。気が付いた萩原は、脳裏に「一本の木」が浮かぶと超人的なセンスとパワーで、素晴しいホームランバッターに変身してしまう体質になっていた。 池内の霊が失神した萩原の体に乗り移っていたのだ。バッティングセンターで萩原を見かけた金持ちの女・桃井かおりは、ダイエーホークスの王監督(本人)に頼み込み、萩原をプロ野球選手にしてもらう。萩原は池内の力を借りてホームランを連発しスター選手となる。 しかし根がお調子者の萩原はしだいに有頂天になり、ロクに練習もしないで夜遊びをしまくる。桃井の忠告も無視するようになった萩原を心配した池内は、ついに姿を現わし説得しようとしたが無視されてしまう。萩原のいいかげんな態度に幻滅した池内の霊が萩原の体から離れてしまったため、萩原はただの一般人となり、二軍へ落とされる。 ある日、フリーランスのジャーナリスト・牧瀬理穂が萩原の「普通の肉体」がホームランを打てる秘密を取材したいと言って近づいてくる。しかし、二軍落ちした選手の記事など価値がなく、牧瀬は取材をあきらめかけるが、撮影したビデオテープに映っていた池内の顔(つまり心霊写真)に興味をもった彼女は、池内がかつて自分の母親と恋人同士だったことを知る。 バット作りの名人・八名信夫の話を聞き、池内の母校をたずねた牧瀬は、そこに野球グラウンドを建設中だった桃井かおりに出会い、桃井が池内の妹だということを知る。桃井は兄が実現できなかったプロ野球選手の夢を萩原に託したのだが、期待はずれだったので、思い出の場所に立派な野球場を作り、記念碑にするつもりだった。 池内の幽霊が実体化できる唯一の場所はその野球場だった。兄の幽霊と再会した桃井は、一緒にプレーするはずだったかつての名選手たち・金田(正一)、谷沢、北別府、平松、江藤(慎一)、張本、稲尾、他「名球会」を召集して、思い出のグラウンドで練習試合を開催。そこへ王監督から桃井へ連絡が入り、福岡ドームで名選手たちと現役選手のエキジビションマッチが実現することになる。 福岡ドームで池内がプレーするためには萩原の体に乗り移らねばならない。萩原はしぶしぶ体を貸すことを約束する。打席に入った萩原は相変わらず三振を繰り返す。幽霊の力を借りなければなにもできない自分に絶望しかかった萩原のために池内はあえて乗り移ることをしなかったのだ。二軍で練習を積んだ萩原はついに実力でホームランを打つ。 自分の夢を萩原に託した池内の魂は福岡ドームの開閉屋根から天国へと飛び去った。 本作品はれっきとした(と、あえて言う)「フィールド・オブ・ドリームス」のパクリである。桃井の作った野球場をさして「ここは天国か?」という萩原の台詞が本家への仁義である(と、あえて言う)。それを受けた牧瀬の「稲取よ」という一言が泣かせる。稲取高原は日本のアイオワなのだ、つまりド田舎っちゅうことか(怒れ!稲取の人々!)? 萩原の頭に浮かんでいた一本の木は、牧瀬の母が池内のためにバットを作ってやろうと枝を取った木で、それがグラウンドの傍に立っている。池内はやっと完成したバットを開幕前に取りにいく途中で事故に遭遇したのだ。 実現できなかった肉親や自分の夢、その夢を実現しようと不器用ながらも努力する人々。その姿は等身大であり、そんな彼等に対する作り手の励ましは、観ていてほーっと胸があったかくなる。ここんところが、本作品の妙味。 萩原が最終打席でホームランを打つバットこそ池内が受け取るはずだったもの。そのバットはたった一球でこっぱ微塵になるが、その破片がまばゆい光のシャワーとなる演出は幻想的で和む。その光の一つが池内と天使で、わざわざ福岡ドームの屋根を開いてから天空へと消えていくのであるが、幽霊なんだから屋根くらいは通り抜けろよ、と思うのは余計なお世話? 寡黙なバット職人を演じる八名信夫は、俳優になる前は元東映フライヤーズの選手、つまり本当の本物のプロ野球選手だった人。粋なキャスティングである。 (1999年08月10日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16