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狼の紋章


■公開:1973年
■制作:東宝
■監督:松本正志
■助監:
■脚本:福田純、石森史郎
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:志垣太郎
■寸評:シェパードの紋章?


 狼の血を引く少年、犬神明・志垣太郎は両親を政府機関によって殺される。故郷の北海道を離れ叔母を頼って上京した犬神は、30代の肉体労働者とみまごうばかりの男子生徒とキャバクラのねーちゃんにしか見えないような女子生徒など異様に老けた高校生がゴロゴロしていて、なおかつ、右翼の大物・河村弘二の一人息子、羽黒・松田優作が番を張っている恐怖の学園に転入してくる。

 この高校はどうやら東京のまん真ん中、日比谷の東宝本社のすぐ近くにあるらしく、恐怖の番長である羽黒の家は位置関係から推測するに皇居のすぐ側らしい。おまけに彼の家の紋章はショッカーもどきのド派手なシロモノでそれが大木戸にデカデカとくっついているのである。

 かようにムチャな生徒がいる学校にはムチャな先生がいるものだ。毎日繰り返される暴力三昧に捨て身で挑む頭の固い女教師・安芸晶子。この人はほぼ毎日、授業中に強姦まがいの事をされているのに全然ひるまず、番長グループを諌めようと努力するので、羽黒としても目の上のタンコブなのだった。

 で、犬神くんは毎日何をしているかと言うと、ぼさぼさの長髪とデニムの上下に厚底の革靴という左翼っぽいスタイルが羽黒の怒りを買ったためか、今日は剣道部、明日は柔道部という具合にいつもリンチされる。しかし満月の時には非人間的な力を発揮する狼男である彼はいくらやられてもメキメキ回復してしまう。

 女教師を暴行魔から救った時なんか腹刺されても全然平気、なのだった。しかしそんな彼も新月の時は人間なみの力しか発揮できない弱点がある。この事を発見した羽黒は、チャンスを待った。

 志垣太郎よりもずーっと毛深いタチの謎のトップ屋・黒沢年男から犬神明の正体を聞いた女教師は、彼のアパートを訪問する。ドアの向こう側は彼が育った大自然の幻想世界が広がっていた。

 新月の夜、女教師を誘拐した羽黒は犬神を誘き出すために彼女を襲う。広大な羽黒屋敷に潜入する途中、矢で胸を射ぬかれたりドスで刺されたりした犬神明は瀕死の姿で女教師のところへたどり着く。羽黒は狼男に変身できない犬神の胸板を日本刀で貫く。女教師の瞳が満月型になったのを見逃さなかった犬神は一瞬、怪力の狼男に変身し胸に日本刀を突き刺したまま羽黒に抱きつき串団子にして倒した。

 すぐに人間に戻ってしまった犬神は黒沢に助け出されたがすでに死んでいた。所詮、人間社会では生きられなかった狼の死体を抱いた女教師は「私も狼になりたい」とつぶやくのだった。

 「あなたも狼に」変わりたかったら石野真子ちゃんにでも頼みなさい、という年配の人にしか理解できないギャグはさておき、これって松田優作のメジャーデビュー作なんですか?いきなり詰め襟、六尺フンドシってのは凄すぎますねえ。

 映画のそこかしこに漂うド左翼なムードがこれまたイイ感じです。右翼とショッカーが同一視されてる豪快な感覚が本作品がSF映画であることを完璧に超越してますもん。羽黒の家の庭って、そこ皇居の芝生でしょう?ってかなりヤバイっすよこの映画のロケは。

 主役の志垣太郎はお稚児さん仕様の二枚目。いつまでたっても顔と体が童顔で、一世一代の当たり役が天一坊、つまり時代劇の人なんですよね、本来は。でもこの人、酒飲みでおまけに結構、現場でのめり込んじゃうタイプらしいんですよね、ウレシイことに。この映画でも特大の剛毛ヘアで、野性味?の演出ですしょうけどボロボロのシャツ着たまんまで歩いたり、道端に寝転んだり、と街頭ロケも平然とこなしてサービス満点です。

 当時はムツゴロウさんところにもまだ狼犬はいなかったんでしょうねえ、きっと。この映画の冒頭、ツンドラ狼(森林狼でも可?)と戯れる犬神明(子供)の図ね、あれねえ、どう見ても黒ドーラン塗ったシェパード犬なんですよねえ。やっぱ犬と狼のシルエットって全然違うんですよ。そこがねえ、あ、犬だ!と分かると妙に和んじゃうんですよね、私、犬大好きだから。

 肝心の狼男のメイクは「怪傑ライオン丸」みたいなカブリモノ。なんかここだけは本物の狼の毛を植毛したとかで、特殊メイクが見どころらしいですがそんなもの素人目にはさっぱり分かりません。そんなところに凝るよりはちゃんと口が動くようにしてあげたほうがよっぽど良かったと思います。

 特殊メイクの志垣太郎より黒沢年男のほうがずーっと狼風だったよなあ、とかそんなところが妙に印象に残ってしまう映画なのでした。

1999年04月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16