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亡霊怪猫屋敷


■公開:1959年
■制作:新東宝
■監督:中川信夫
■助監:
■脚本:石川義寛
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:五月藤江
■寸評:化け猫映画と言うのは通常、化けた後が怖いものですが、本作品は化ける前のほうがよっぽど怖いです。


 深夜、医大の研究室で医師・細川俊夫は病弱な妻・江島由里子が転地療養に行った郷里での出来事を思い出していた。そこへ、ヒタヒタと不気味な足音が迫る。

 医師と妻は実兄の紹介で古びた屋敷を借りることになった。ある日、不気味な老婆(顔は見えないけど五月藤江)が訪ねてきて、子供が病気だから往診してくれと言う。医師があわてて外出したスキに、老婆は音もなく寝室に上がり込み、妻を締め殺そうとした。

 大声を出したため老婆は逃げ出したが、その夜から妻は毎晩のように悪夢にうなされるようになる。見かねた医師は地元の寺の住職から妻の実家にまつわる因縁話しを聞かされた。夫妻が借りた屋敷はかつて小手鞠屋敷と呼ばれていたのだった。

 江戸時代、小手鞠屋敷には短気で有名な藩の重役が住んでいた。彼はヘボのくせに碁が大好きで、ある日、碁の名手と評判の高い一本気な若侍・中村竜三郎を屋敷に呼びつけて勝負しようと言い出した。若侍の妹・北沢典子は重役の息子の許婚。若侍の母親は盲目であった。

 案の定、ささいな事から言い争いになった重役が頭に血がのぼってしまい若侍を惨殺した挙句に、小心者の下男に言いつけて死体を床の間の壁に塗り込めてしまう。若侍の母親は何かを訴えるように懸命に鳴く愛猫の態度に胸騒ぎを覚えたが、その夜、若侍の幽霊が断末魔に引き千切った重役の小袖を持って現われたため、息子の身を案じて小手鞠屋敷に向かった。

 最初はシラを切っていた重役だったが、若侍の母親の剣幕にあやうく真相を白状させられそうになったため、口封じのために彼女に襲いかかる。息子を殺された上に暴行された母親は愛猫に「末代までもたたって一族を根絶やしにしておくれ」という強烈な復讐を頼んで自害。

 若侍の愛猫はさっそく重役の屋敷に忍び込み、重役の母親・五月藤江のノドを噛み千切って殺し、死体を床下に隠して、五月になりすますことに成功。様子を見に来た女中も殺してパシリにした五月猫は重役の寝室に現われ、死んだ主人の幽霊とともに重役を恐怖に陥れる。半狂乱になった重役は北沢典子を斬ってしまう。

 怒った息子と父親が乱闘になり、二人とも斬り死にしてしまったので、家系は絶えた上に、化け猫の噂が広がったので、以後、現代に至るまで小手鞠屋敷には住む者がいなかった。

 復讐が完了したはずなのになぜ妻が猫の怨念に苦しめられたのかと言うと、死体遺棄の片棒を担いだ下男というのが実は妻の祖先だったから。妻の寝室が惨劇の現場だった事を知った医師はさっそく魔避けのお札を貼って猫を追い払おうとするが、忠義な猫にそんなもんは効力なし。嵐の夜、いよいよ妻にトドメを刺そうと化け猫老婆が現われた時、音をたてて壁が崩れ落ち、中から若侍の朽ち果てたミイラが転がり出たのだった。

 妻の首に手をかけていた化け猫老婆はそのミイラに吸い寄せられるように近づいていき、壁の向こうへ消えて行った。

 再び、夜の研究室。足音の主は妻だった。因果を知った妻がミイラを丁重に弔ってやったので、亡霊は二度と姿を見せなくなったばかりではなく、妻の病気までメキメキ治してくれたのだった。医師はちょうど1年前に起きた不思議な出来事を懐かしく思い出していた。

 この映画はとても怖い、ただでさえオッカナイ五月藤江が化けた猫なんか想像するだけで心臓止まりそう。でも観終わった後の、なんとも言えない清々しさは、最後に被害者が成仏したからなんでしょうね。

 直接手を下した当事者じゃない人の子孫だし、もう十分怖い思いもさせたし、因縁も理解してくれただろうし、お弔まで出してくれたんだからっちゅうことで妻は殺されなかったんですね。

 だってねえ、親の因果が子に報い、といったって時代がかかりすぎでしょう?奥さん気の毒だよなあ、と見ているほうとしては思うのですね。

 しかしよく考えると、せっかく関係者が小手鞠屋敷に帰って来たんだから、ご主人のお弔をしてもらおうと考えた猫の最後のご奉公だったのかもしれませんね。そう考えると、多少お願いする手段が乱暴だった点もヨシとしてあげよう、って気になりますね(ならない、ならない)。

 人がパッタパッタと死ぬ割に残虐な感じがしないのは「直接の殺害シーン」が出てこないから。斬りあいになって二人がもつれながらフレームアウトした途端に、空舞台に悲鳴と断末魔だけが聞こえる、とか。猫にノド元をかき切られるシーンは障子の影だけ、とか。

 首が裂けたり、額がパックリ割れたり、そのものズバリのシーンを見せて怖がらせるというのはどんどんエスカレートしないとお客が飽きちゃいますが、それが見えないだけに頭のなかで想像が餅のように膨らんで際限がありません。しかも後味がマイルド、上手いんですよね、見せ方が。

 残酷なだけのホラー映画に食傷気味の方にはオススメします。

1999年05月24日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16