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地獄(1979)


■公開:1979年
■制作:東映
■監督:神代辰巳
■助監:
■脚本:田中陽三
■原作:
■撮影:
■音楽:山崎ハコ(挿入歌)
■美術:
■主演:原田美枝子
■寸評:「この子の七つのお祝いに」(岸田今日子)と、「四谷怪談」(稲野和子)と、そして「雨月物語」(毛利菊枝)と、なるほど、女性上位のホラースペクタクル。


 地獄をテーマとする以上、その映画の要素としては、いかにも罪深そうなキャラクターが必須です。なんせ出演者が地獄に落ちてくれないと物語が成立しません。先の名作「地獄」(新東宝)では登場人物のほぼ全員が地獄めぐりツアーに参加するのですが、本作品も主要な人物は皆さん、それ相応の所業の方々で占められます。

 昭和30年、名家の分家で、金も地位もあったが、酒乱気味の男・田中邦衛に嫁いだ流浪の女、ミホ・原田美枝子が、義理の兄・西田健とかけおちの途中で殺される。臨月のミホを殺すように命令したのは西田の妻・岸田今日子であった。

 翌日発見されたミホの死体から誕生した赤子は、事情を知らない村人たちによって岸田の家に運ばれる。忠実な使用人・加藤嘉は岸田が赤子を虐待しそうなので、隣村から捨て子を譲り受け、ミホの娘と交換した。捨て子は美しい娘・栗田ひろみに成長したが、ミホの娘の行方は誰も知らなかった。

 岸田には二人の息子がいて、長男・石橋蓮司はカーレーサーになっていた。同じレースに出場していた女の車と接触して負傷した石橋は故郷に戻ってしまう。女の名前はアキ・原田美枝子(二役)と言い、事故後、彼女は得体のしれない声に導かれて、岸田の次男で陶芸家・林隆三と運命的な出会いをする。

 母親の死体がひとりでに墜落した淵に引きずり込まれそうになったアキを救った蓮司は、朦朧とするアキを抱いてしまう。すべての事件のとっかかりにはいつもミホの、まさしく地獄の底から湧いてくるような声が聞こえているのであった。回想シーンがビジュアル的に怖かった岸田今日子の「この子の七つのお祝いに」よりかはマシかもしれんが、その目的は自分を殺した連中を殺しまくる事と、娘を地獄へ誘い込む、というものであるから、ま、どっこいどっこいか。

 ミホに瓜二つのアキを見た岸田と加藤は、アキがミホの娘である証拠を掴む。林がアキを愛していると知った栗田は絶望して焼身自殺を遂げる。アキの美しさに昔を思い出した田中がアキを襲うが、ミホが愛用していた三味線のバチにより両目を潰され崖から転落死する。これがホントの「バチアタリ」なんちゃって、、、。

 西田のミイラが安置されていた地下道に落ちた岸田はそこで舌を噛んで死ぬ。アキは林とともに村を脱出しようとするが、その後を蓮司と、アキを村から追い出すために、彼女を襲おうとしてうっかり栗田ひろみを強姦してしまった村のバカたれども・福本清三(他3名)が追いかける。カーっとなった蓮司によって、彼を止めに来た加藤嘉が撲殺されてしまう、ひどいぞ!蓮司。

 年寄りを粗末に扱うものが幸せになったためしなし。そこへ突然、大地震が発生。巨大な落石によって蓮司と村の若衆は全滅する。自分の人生がすべて殺されたミホの呪いに支配されていた事を知ったアキは、いかにも墜落しそうな崖っぷちにあったほったて小屋で林隆三と愛しあいながら一緒に地獄へ落ちる。小屋ごと地獄へ滑り落ちるその図がどうしても「ドリフのコント」を彷彿とさせるのが、かなり笑える。笑うところじゃないんだが。

 さあ、ここからがお待ちかねの地獄めぐりの始まりだ。誰が出てくんのかな?胸ワクワク。

 まずは罪の重さを計る木の番人ペア・浜村純毛利菊枝が出てきてオールドタイマーズを感激させる。そして地獄のツアコン・天本英世が登場。昔のチビッコはここで大拍手せよ。そんでもってエン魔大王はなぜか金子信雄だったりするのだが、これはご愛敬としよう。とりあえずアキは地獄の下見へ出発するのであった。

 石臼でミンチになる岸田今日子、女のケツを追いかけ回して体を切り刻まれる蓮司と隆三の兄弟。そしてついにアキは、畜生になって共食いをしている母親のミホに出会う。毛むくじゃらに一本角の特殊メイク、これは「花嫁吸血魔」の池内淳子自身による「コウモリ娘」に匹敵する「体当り演技」として後世にまで語り継がれることであろう(きっと、ね)。

 我を忘れて娘をムシャムシャ喰う母は娘の涙にハタと気がつき、アキが変身した巨大な樹に突進していく。おお!これがホントの「体当り」なんちゃって。母親の執念が実り、アキは山崎ハコの歌に見送られて無事に転生したのであった。

 どうも話のオチとしては母子もの風でもあり、原田美枝子や栗田ひろみが犯されてたから立派なポルノ映画だったような、でも中盤までは愛憎劇だったような、、、という結局のところわけわかんない系の映画。

 最近はすっかり物わかりの良い朴訥なキャラクターになっている田中邦衛ですが、ここでは東宝時代の不健康で意地汚ないギャングだったころを思い出したように、下品な田舎代議士くずれを演ってます。その後妻が「四谷怪談」の稲野和子だったので、かなり期待したのですが最後までオッカなくなりませんでしたので、ここんところは期待はずれでしたね。

 原田美枝子のでっかい胸と栗田ひろみのそこそこの胸にはあまり興味がない私としては地獄の亡者、東映剣会の殺陣の先生である福本清三を筆頭とする東映の大部屋俳優の方々に注目ですね。中川版ではただのたうちまわるだけだった亡者ですが、ここ東映(京都)の亡者の皆さんはとことん抵抗します。とても死者とは思えない、パワー全開で火炎地獄から必死に這い上がってくるのです。

 まるで「蜘蛛の糸」に出てくるカンダダが束になって登場したような感じ。仲間を蹴飛ばすわ、髪の毛ひっつかんで引きづり落とすわ、まさにやりたい放題。登場人物が死にまくるし、流血ガンガンの残酷シーンの連発ではあるけれど、なんだか妙に元気一杯な感じ。

1999年05月24日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16