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人間標的


■公開:1971年
■制作:松竹
■監督:井上梅次
■助監:
■脚本:井上梅次
■原作:
■撮影:
■音楽:いずみたく
■美術:
■主演:若林豪
■寸評:渋い中年男の原点。


 今にして思えば、後にテレビドラマ「Gメン’75」で一般的知名度が一気に向上した若林豪の原点は本作品なのではないか。

 刑事の根来・若林豪は妹・尾崎奈々と二人暮らし。ある日、根来が逮捕した殺人犯、山辺・山崎努が脱獄したという情報が入る。人情味溢れる刑事課長・安部徹(えっ?)は山辺が元彼女・香川美子に会いに来ると考え護衛をつけた。

 山辺は麻薬取り引き事件に絡んで逮捕されたのだが、組織の親分・高木均に大金で買収されていたので、背後関係については一切、黙秘していた。おねーちゃんをナンパしていた若僧3人を叩きのめしまんまと洋服と車を手に入れた山辺は、高木の所有している会社の金庫から大金を奪い、コレクションのライフルと実弾を持ち出す。

 香川美子は山辺が逮捕されるとき、根来が撃った銃弾を足首に受けてビッコになっていた。実はパラノイア気味の山崎から逃げたがっていた香川は、責任を感じて面倒をみた根来とラブラブに。そうとは知らない山辺は一目散に香川の住んでいたアパートへ向かう。なんせ女っけの無い刑務所暮らしが長かったもんだから、それこそヤル気が満々状態の山辺、ただでさえイッちゃってる人だけにこうなるともう誰も止められない。ブレーキの壊れたダンプカーである。

 山辺はとりあえずその悶々とした思いを食欲方面で大爆発させる。堂々の指名手配報道もものかわ、食堂のメニューを片っ端からたいらげて給仕のオバチャンにしっかりと顔を覚えられた山辺は、さらに執拗に香川を探し求める。

 香川の面倒を見ずにほったらかしにしていた高木は怖くなり、悪知恵に関してはとても頼り甲斐のある幹部・今井健二に相談をぶつ。知能犯の今井は、香川が根来とくっついた事を山辺にバラし、怒りのほこさきを根来に集中させる。元々、一途な山辺は根来への復讐を即決。

 妹がヤク中で困っていた女・太地喜和子が根来にゾッコンで、たまたま妹の恋人が高木の実弟だったことから、山辺が香川のアパートを探りだし、彼女を誘拐したらしいと分かる。 根来の後輩の刑事・目黒裕樹は尾崎奈々と恋人同士だったが、目黒は学生アルバイトに頼んで作って貰ったペンダントくらいしか尾崎にプレゼントできないほどの安月給。たまたま職場の演芸大会で男装したまま帰宅した尾崎を、根来と勘違いした山辺がライフルで撃つが、ペンダントのおかげで無事だった。

 追い詰められた山辺は、香川美子を人質にとって篭城。現場には心やさしい警察署長・神田隆(ええっ?)も駆けつける。山辺と直接対決することになった根来をかばって香川が撃たれて死ぬ。全てを失った山辺は根来の手によって再び、逮捕された。 ストーリーはまっとうな刑事ドラマ。ただし随所に井上梅次の「趣味」としか思えないシーンが登場する。そう、それはむやみやたらと出演者が歌いまくる、というものだ。演芸大会で、バスの中で、素人さんたちが合唱する。そのメチャ明るいシーンと山崎努のパラノイア演技がもう、笑っちゃうくらいのコントラストの強さなのだが、お互いに引き立てあうのではなく、遊離してしまっているので、どうもしっくり来ない。

 安部徹と神田隆が君臨する警察に、物凄い違和感をおぼえちゃうのは私だけ?「人間標的」なんて言うからシークレットサービスの話かと思ったけれど、たまたま主人公と妹が窓辺のシルエットで間違われたっていうことなので完全にタイトル負けな感じ。

1999年06月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16