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女 吸血鬼


■公開:1959年
■制作:新東宝
■監督:中川信夫
■助監:
■脚本:中沢信、中津勝義
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:天知茂
■寸評:色敵には吸血鬼がよく似合う。


 高名な学者の妻・三原葉子は、旅行先の島原で行方不明になった。20年後、娘・池内淳子の誕生日の夜、忽然と姿を現わした三原葉子は20年前とまったく同じ若さと美貌とナイスバディを保っていたが、全く記憶を失っていた。

 その頃、無名の画家の作品が二科展に入選して話題になっていた。池内淳子と恋人の新聞記者は、その絵のモデルが三原葉子にそっくりなのに驚く。会場で池内に声をかけたサングラスの男・天知茂は、池内が三原の娘であることを確かめると、姿を消した。

 天知の正体は、件の絵の作者であった。彼は一寸法師をともなって東京のホテルに滞在していたがなぜか月を見ると急に苦しみ出した。月の光を浴びた天知は見る見るうちに眼光の異様に鋭い(素でも十分に鋭いが)吸血鬼に変身し、様子を見に来たメイドを襲って殺してしまう。

 吸血鬼だと思ったら狼男だったのか?と観ているほうは混乱するのだが、月の光を浴びた彼は魔力が失われて急激に体が衰弱してしまうのである。吸血鬼への変身はエネルギーチャージをするためのものなのだ。

 展覧会の会場から盗み出された絵「三原葉子のオダリスク(つまり裸の三原の後ろ寝姿)」が学者の家に届けられた。その絵を見た三原葉子は突如、怯え出してついでに記憶を取り戻す。

 20年前、島原の乱で死んだ天草四郎の末裔にあたる三原葉子は、見知らぬ男に誘拐され地下城へ連れ込まれた。そこで天草四郎本人だと名乗る男・天知茂に軟禁されていたのだった。天知の話によれば天草四郎(天知)は落城の際、道連れになった姫・三原葉子をいとおしむあまり、彼女の生き血をすすってしまったので、不死の体になり、以後、彼女の血を引く末裔の女を幽閉してはその血を吸って生き延びているのだと言う。天知はイヤがる三原葉子をいつまでも側に置いておくため自分と同様の不死身の体にしてしまったのだった。

 天知はメイド殺人容疑で警察に取り調べられる。24時間営業の警察は時間に無頓着。取り調べがズルズルと長引き、夜になってしまったためあわててホテルに引き返そうとした天知茂であったが、無情にも日はとっぷりと暮れてしまい、空に煌々とした月がぽっかり出てしまった。

 こりゃ大変とバーに逃げ込み、一息ついたが、あわてたのは召使の一寸法師。すでに変身が始まってしまったご主人を助けようとカウンターで大暴れをして客の気を反らそうとしたが、うっかり投げた椅子が高窓を直撃。月の光をモロに浴びた天知は衆人環視の中、オッカナイ吸血鬼に変身してしまう。理性がぶっとんだ天知は手当りしだいにホステスに噛みついて殺してしまう。

 いよいよ尻に火がついた天知は学者の家にすっとんで行き、三原葉子を再び誘拐する。

 ちょうどその頃、島原で逮捕された強盗犯の証言から、地底城の所在が突き止められていた。強盗が金を隠そうと潜り込んだ洞窟の奥に、怪しい老婆・五月藤江や海坊主や一寸法師がいて、とても怖かった、と言うのである。

 島原へ向かった池内は捜索隊に加わるが途中で迷子になってしまう。海坊主に追われた池内がたどりついた地底城では、黒マント姿のカッチョイイ天知茂が自信満々にお出迎え。怯える池内淳子に手を出そうとした天知茂を止めたのは五月藤江であった。ボインと清純派という二つのニンジンを目の前にした天知は「母子を二股かけちゃいけませんぜ坊ちゃん!」という五月の苦言を無視した挙句に彼女に鞭打った。

 魔力に色恋は御法度。やっとこさ地底城に潜入した警官隊が目にしたのはロウ人形にさせられた三原葉子のあで姿、もとい、ビキニ姿であった。驚愕する一同と対決する天知。そのスキに欲に駆られた強盗が金を掘り出そうと城の天井を壊したため、地底城の奥深くに月の光が差し込む。

 恋人の必死の抵抗で池内の血を吸い損ねた天知茂はイカス吸血鬼の姿すらキープできなくなり、頭髪は真っ白、肌はデコボコのシワシワという五月藤江より不気味な山ん婆状態になってしまった。最期を悟った天知は三原葉子のロウ人形に別れを告げ、底無し沼に身を踊らせた。

 手塩にかけた坊ちゃんの冷たい仕打ちに絶望した五月藤江が天草家伝来の武器弾薬の倉庫に放火。止めに入った一寸法師とともに城は大爆発を起こす。城で経験した不思議なできごとも、天草四郎の吸血鬼も、代々の末裔たちの哀れなロウ人形も、すべては巨大な爆音とともに葬られたのであった。

 キリスト教国以外で吸血鬼の弱点を見い出すのに「月の光」ってのがオシャレだ。吸血鬼というのは神罰であるから一応、キリスト教徒の天草四郎がドラキュラになるのにはスジが通っている。

 天知茂がその後、いくらテレビで活躍しようともその根幹にこの「女吸血鬼」と「四谷怪談」がある事を忘れてはイケナイ。そして、天知茂のおそらく最期の作品が海外のプロダクションと共同制作した「狼男とサムライ」という、吸血鬼と狼男の合体したスプラッター時代劇だったのも何かの因縁と思う。

1999年06月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16