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原子力戦争


■公開:1978年
■制作:ATG
■監督:黒木和雄
■助監:
■脚本:鴨井達比古
■原作:田原総一郎
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:原田芳雄
■寸評:作品には怪獣、宇宙人、ジオラマ特撮などは全然登場しません。


 若い男女の心中死体が浜辺に打ち上げられた。男は小名浜原子力発電所の技師、女は地元の漁業組合の代表、青葉・石山雄大の妹、のぞみだった。のぞみは東京でトルコ嬢をしていたが実家の法事のため帰郷していたのだった。

 のぞみのヒモだったちんぴら・原田芳雄が小名浜にやってくる。のぞみの妹、つばさ・風吹ジュンから事件の真相を聞き出そうとした原田を兄の石山が追い返す。原発の危険性を告発しようとしていた新聞記者・佐藤慶と知り合った原田は、心中相手である技師の未亡人・山口小夜子を訪ねる。

 山口と技師は新婚だった。技師が持っていた原発事故の証拠書類を預かった原田は山口から、技師と最後に会ったのは原発の労組委員長の小林であると聞かされる。小林を呼び出した原田が何者かに襲撃された。翌日、小林の首吊り死体が発見される。

 怖くなった原田から証拠書類を預かった佐藤慶は、原発の所長に事故の発表を迫る。直後に支局長・戸浦六宏からクビをにおわされた佐藤は、たまたま小名浜を訪れていた高名な科学者・岡田英次に事件の告発を要請するが、彼は「事故のパニックによる原子力発電所開発の中止のほうが国民にとってよほど危険」と言って断わった。

 情婦を殺した奴から金を強請ることくらいしか考えていなかった原田のところへ、兄と喧嘩したつばさが逃げ込んで来る。原子炉のメルトダウンを引き起こしかねない事故を告発しようとした技師は心中に見せかけられて殺された、のぞみはたまたま事件に巻き込まれただけだったのだ。

 数人の男が踏み込んできてつばさが連れ去られた。後を追った原田はのぞみの仇をうつために兄を襲撃。傷害犯として追われる原田の目の前に山口小夜子が現われ人気のない場所で姿を消した。呆然とする原田の周りをおびただしい数の正体不明の男どもが取り囲む。

 佐藤は現地妻・磯村みどりとの生活を守るために原発事故の問題から手を引いてしまった。山口小夜子は技師の監視をするために岡田英次が送り込んだスパイだった。原田の死体が浜に上がった頃、岡田は情婦の山口小夜子とともに東京へ帰って行くのだった。

 本作品に登場する動燃とおぼしき組織なんぞは、やくざのソレとほぼ同一で、しかも国家を味方につけている分だけヤバさは倍増です。小名浜原発の入り口でゲリラ撮影している時の警備員ね、やましい事でもしてなけりゃああいう態度はとらんだろう普通、というくらいピリピリしてるんですよね。

 どこまでが真実でどこまでがフィクションなんだか、いやはや怖い。怖がっているうちが花かもわかんなくて、こういうのは気がついたらどうしようもない、ってのがほとんどなんでしょうね。

 でね、岡田英次が演じた科学者の言い分ね、どっかで聞いた台詞だなと思ったら、アレですよ、エイズ裁判の安部某。あの人と発想のコンセプトがほとんど同じなんですよね。怖いですねえ、なんて怖い映画なんでしょうねえ(by 淀長)。

 でもありがたいことに今の時代にはインターネットっつうものがあるんですな。もし現代でこのテーマを描こうとしたら技師さん、死ぬことはなかったでしょうね。その前にバレますからねたぶん。情報を閉ざしてしまうこと、その情報が正しいかどうか判断する手段を奪ってしまうことが、いかに恐ろしいか。それが「もんじゅ」で立証されるんですよねえ。

 これも偶然なんですかねえ、殺されるトルコ嬢の名前が「のぞみ」、妹が「つばさ」、名字が「あおば」。これって最近の新幹線の名称なんですよね。さすが社会派!「もんじゅ」だけでなく新幹線の名前まで予見していたとは!なんて思うとちったあ楽しくなりますよ、この映画。だって救いよう(救われよう)が全然ないんですもの。

1999年05月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16