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愉快な極道


■公開:1976年
■制作:東映
■監督:山下耕作
■特撮監督:
■助監:
■脚本:高田宏治
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:若山富三郎
■備考:ひとりでドリフターズを演る男。


 いかりや長介とドリフターズはなぜあんなに面白かったのか?それは、コワモテ、スポーツマン、ボケ、デブ、など多様な個性が集まっていたからである。若山富三郎もそういう俳優だった。しかも1人で全部できちゃったのだから、凄い。

 京都でタクシーの運転手をしている岩さん・若山富三郎は元極道で空手の達人。しかし今では服役中に妻(三条美紀ではありません、念のため)に先立たれて一人娘・紀比呂子と二人でひっそりと暮らしている。若山の務めているタクシー会社の従業員は所長・南道郎、事務員・泉ピン子、無線係・野口貴史という濃いメンツだったが、皆、若山の過去を知りつつ彼を応援してくれるあったかい連中だ。

 個人免許を目指してガンバル若山だが、昔の自分を反省してかやたらと正義感が強く、警察から感謝状をたくさん貰っているのだが営業成績のほうはさっぱりだった。

 白タクをしている地元のやくざにまとわり付かれていた女・三田佳子を助けた若山は彼女に一目惚れ。三田は、若山の娘が看護婦として務めている病院の非常勤医師として、東京から赴任してきたのだった。さっそく体の不調を訴えた若山は診療してもらえると思ってイソイソやって来るとそこにいたのは当番医・桂三枝だった。

 お人好しの若山はちんぴら・左とん平を更正させようとタクシー会社に就職させる。真面目になろうと努力していたとん平が自分をフッた女といちゃいちゃしていたやくざの親分に怪我をさせてしまう。

 若山は親分(当然、仮病)の入院している病院に行き、ベッドを空手チョップで真っ二つにするパフォーマンスを披露して二度とイヤガラセをしに来ないよう約束させる。若山の後輩運転手・北島三郎は貧しいながらも兄弟に仕送りしてやったりする実直なイイ奴。北島は紀と恋人同士だったが、娘がかわいくて仕方がない若山になかなか言い出せない。

 腹の虫が収まらないやくざたちが紀を誘拐した。どんなイヤガラセにも我慢してきた若山の堪忍袋の緒がついきブチ切れる。タクシーをかっとばして事務所へ飛び込む若山と、後を追って来た北島は消火器の粉で真っ白になりながらも大乱闘となる。どさくさに紛れて逃げ出そうとしたやくざたちは、仲間のタクシーに取り囲まれ全員逮捕された。紀と北島はみんなに祝福されて結婚式をあげた。

 亭主と死別して一人娘と一緒に暮らしていた三田には、恋人・蜷川幸雄がいたらしいが、死んだ亭主忘れられない彼女は蜷川と別れた。若山は勇気を振り絞って三田にプロポーズした。

 自分のキャラクターを思いっきりパロディにしてしまえた俳優のみが真のスタアと呼ばれるべきだと私は思っている。「若山富三郎にタクシーの運転手はいかにも不似合い」と評した雑誌があったが、そんなことは当り前である。

 貫祿があって、運動神経抜群で、愛敬があり、コワモテで、オマヌケ。タクシーの屋根の上からトンボを切って見せる(ただし、足元はマットあり)運動神経の良さ、押し出しの弱いちんぴらども(演じるのは石橋蓮司片桐竜次ら)を一睨みで黙らせる貫祿、三枝との即興コント、鼻もちならない女医に捧げる純情の愛くるしさ。

 これらすべてが濃縮された若山富三郎の活躍を私は感謝を込め、最大級の賛辞を以て「一人ドリフターズ」と命名したい。

 三枝にオチョくられ椅子から転げ落ちたり、化粧の濃いハイミスの泉に怒鳴らたり、春川ますみにのしかかられて手も足もでない若山富三郎を見られるのは本作品くらいのものである。これに感謝せずに何に感謝すればいいのだろう、有難くて涙の一つも出てくるのが普通だ。

 本作品は「極道シリーズ」の最終作であり職業評論家からはロクな言われ方どころか、俎上にすら上らない作品であるが、「その後の若山富三郎」の可能性の一つを明確に、かつ、オーバーに示したという点においてとても重要な作品だと私は断言する。だからどうだ?って言われても困るんですけどね。

1999年02月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16