「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


配達されない三通の手紙


■公開:1979年
■制作:松竹
■監督:野村芳太郎
■特撮監督:
■助監:
■脚本:新藤兼人
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:栗原小巻
■備考:ネタバレあります、ご注意ください。


 萩の大手市中銀行頭取・佐分利信の娘・栗原小巻は挙式直前に婚約者・片岡孝夫に蒸発された。栗原の妹・神崎愛は東洋史を勉強するために日本へ来ていた留学生・蟇目良を自宅へ招き居候させる。神崎には警察関係の渡瀬恒彦という恋人がいたが、姉に遠慮して結婚を延期していた。

 ある日、勘当された佐分利の長女・小川真由美のところへ片岡から手紙が届く。急に舞い戻った片岡を警戒した佐分利であったが素直に喜ぶ栗原の姿にほだされ、花婿として迎える決心をする。二人が新婚旅行から戻った翌日、北海道から片岡の妹・松坂慶子が突然、やってきて同居すると言い出した。

 片岡に色目を使う松坂を快く思っていなかった栗原は、ある日、片岡の書籍の中から彼の妹にあてた直筆の殺害予告の手紙を3通発見する。ターゲットは彼の妻、つまり栗原なのだった。手紙の内容を盗み見た神崎と蟇目良が片岡を尾行すると、彼は栗原の指輪を質入れしたりサラ金に出入りしたり不審な行動をとっていた。

 パーティーの日、酔っ払って会場に現われた松坂が、栗原のグラスから酒を飲んで急死した。死因はヒソ中毒によるものだった。手紙の存在を警察に知られたと思い込んだ栗原は必死になって片岡の無実を訴えるが、警察は彼を逮捕した。栗原は錯乱したまま子供を産んで衰弱死した。

 栗原の葬儀の日、渡瀬の特別な配慮で葬儀に列席することを許された片岡は、北海道から上京してきた学校の後輩・竹下景子の車を奪って逃走し、車もろとも崖から転落死する。事件は被疑者、被害者とも全員が死亡してしまい幕を閉じた。

 松坂慶子は実は片岡が北海道に逃亡していた時の現地妻であったわけです。栗原は女のカンですぐにそれを見破りました。根が小心者の片岡は女房に内緒で、もちろん恐怖の義父にも秘密で、銀行の金をちょろまかしたり、借金したりして松坂への手切れ金を用意していたのです。

 妹に化けて追っかけてくるほどの性根の座った松坂がそう簡単にあきらめるはずもなく、また、彼女への未練絶ち難い片岡も片岡で、ズルズルと関係を続けてしまいます。そういう状況にセンシティブな栗原小巻が耐えられるわけないので、彼女は嫉妬に狂って松坂殺害計画を実行に移したのです。

 一本気な神崎とお人好しの蟇目良は完璧な小道具として活躍したのですが、事件の幕引きを担当した竹下景子にも秘密がありました。彼は片岡の本当の妹で、実は先の手紙は松坂殺害のアリバイ工作のために片岡が竹下に出そうとしていた手紙だったというのがオチです。そしてやはり女の直感で兄の最後の希望を叶えてやったんですね。

 かように女のカンというのはまことに恐ろしいものですね。特に一旦しくじってる女の場合は。要するに片岡が自分のマスクの良さに溺れてあっちこっちでツマミ喰いをして、にっちもさっちも行かなくなったのが原因なんですけど、実際、片岡孝夫はこういう役どころがドンピシャです。色男には金と力と分別があってはイケナイのですから。

 出場は少ないですが、ちょっとマザコン気味の片岡をしっかりと抱いてあげる小川真由美の存在も捨て難いものがあります。

 こんなに情念の濃い女性達に囲まれると梨園の貴公子も(毎度の事ながら)森の小動物なみに貧弱ですが、そんな彼に追い討ちをかけたのが娘思いのお父さん、佐分利信です。あの顔で面と向かって説教される事を想像しただけで寿命が縮まってしまいますからね。

 この映画の松坂慶子はかなり役得ではありますが、素直にイイ味出してます。本当に下品な人が演っちゃうと目も当てられない役どころですが、いくら化粧をお下劣にしても生地が奇麗だし、人柄の良さがにじみ出ちゃってますし、だからこそ、そこはかとない「哀しさ」が出たと思います。

 実際に色っぽいシーンはほとんど無い本作品で、早朝、息をはずませてジョギングをする神崎愛とピッチピチのトレーニングウエアの蟇目良が一番エッチな感じがしたのは私だけでしょうか。だって朝日を浴びながら二人ならんで黙々と腰の回転運動してるんですもん。なんかあまりにも唐突なので爆笑してしまいました。

1999年03月01日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16