「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


日本悪人伝・地獄の道づれ


■公開:1972年
■制作:東映
■監督:村山新治
■特撮監督:
■助監:
■脚本:山田隆之
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:若山富三郎
■備考:


 大正時代、悪徳(ど近眼)刑事・渡辺文雄にアヘン密売の濡れ衣を着せられた神戸のやくざ・若山富三郎は刑期を終えて出所したその日のうちにお礼参りのために横浜へ向かった。

 外人船員相手に違法賭博場を経営していた支配人・曽根晴美に取り入った若山は、性懲りもなく賄賂を取って密輸の片棒を担いでいた渡辺に再会する。密輸の黒幕は格安の輸入米を貧乏人に売り善人面をしていた実業家・金子信雄と、金子の邪魔者を始末して密輸のオコボレに与っていた地回りの親分・内田朝雄

 若山は金子と組んでいた密輸船の船長・オスマン・ユセフに犯されて妊娠していたシスター・真山知子を、腕は良いが今ではラリパッパになった片腕の医者・小池朝雄のところへ連れていき堕胎させてやるが、元々性根が腐っていた真山は若山の頭を花瓶でドツいて金を奪い姿を消す。

 盲だが仕込み杖の使い手でおまけに意地汚ない当たり屋・小松方正と、曽根に半端者扱いされて曽根を恨んで彼を殺した唖のバーテン・江波多寛児(現・江畑高志)が仲間に加わり、いったんは行方をくらました真山も舞い戻り、車の運転ができる小池を加えた若山の仲間は5人になった。

 ユセフの船から密かに運び出された密輸品の袋をまんまと強奪した若山たちは、金子からさらに金を強請ろうと金子の妻・森秋子を誘拐した。森は貴族出身のお嬢様だったが、金子がインポだったため欲求不満気味。そこへ精力絶倫の若山が現われたため森はさっさと金子を裏切り若山の協力者となる。

 なんだかんだ言っても若山が好きだった真山は森への嫉妬ゆえに、外人墓地のアジトを金子に教えに行くがそこで偶然にユセフと再会してしまう。金子は小池に命じてアジトを襲撃させた。手流弾を浴びた森と、火事で逃げ送れた小松が死んだ。

 元は金目当てに集まったヨタ者たちだったが、若山も小池も江波多も、弱い者イジメだけはしたことがないというのが自慢の面々。若山たちは、金子と内田と渡辺が祝杯を上げていた宴席を急襲した。大乱闘の末、江波多と小池は倒されたが、金子と内田は死んだ。

 風呂場で一瞬の隙をついた真山がオスマンを十字架に仕込んだ(バチあたるぞ!)刃物でメッタ刺しにして殺す。しかし怪力の彼に湯船に引き込まれ真山は溺死。渡辺を追い詰めた若山は銃弾をあびながらも、渡辺の顔面を焼いてついに復讐を果たしたのだった。

 この映画には、社会通念に照らし合わせて善人であると判断される人間は一人も出てこない。

 貧乏貴族出身の森秋子は、金目当てにエロジジイの金子と政略結婚させられたので、ちったあ気の毒な身の上かと思いきや、いったん覚えたセックスの味が忘れられずアバズレの真山と若山を争って全裸で大乱闘してのける。「お止しになって」と言葉だけがオハイソなのが爆笑必死。森は新劇出身だが「サロメ」では舞台の上で全裸になったこともあるので、そのへんの事情を加味して見ているとそのハレンチシーンが全然唐突に見えないから不思議だ。

 東映の映画ではよくタッパの大きな白人男がものすごい変態の役をやらされていたりするが、ロルフ・ジェッサーと並んでヘンテコだったのがオスマン・ユセフである。彼はプロレスラーからレフェリーになったユセフ・トルコと実の兄弟。おしなべて、やくざ映画は右翼的なワールドであるから、彼らは鬼畜米英の象徴として日本の女子を襲いその報復を受けトンデモナイ死に様をさらして、それを見た男性観客たちは実社会のさまざまなコンチクショウ的出来事のストレスを解消していたものと推察される。

 この映画のテーマは虐げられた人々が一致団結して権力者にたち向かうという実に真っ当なものである(手段は問わない)。社会からスポイルされた仲間が集まって悪党の上前をはねるなんて、まるで「ブレーメンの音楽隊」ではないか?。やくざ映画の精神的な根源はメルヘンにあり。ハダカと暴力の地平線の向こうに、男たちはいつか見たお花畑があると信じているのに違いない。

1999年01月23日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16