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長脇差(ながどす)忠臣蔵


■公開:1962年
■制作:大映
■監督:渡辺邦男
■特撮監督:
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:市川雷蔵
■備考:


 幕末の頃、掛川宿の地元やくざの親分・宇津井健は百姓や町民からなにかと頼りにされていた。宇津井の人気が面白くない対抗勢力の親分・上田吉二郎は老中である浜松城主・名和宏の妾として自分の娘を差し出しており、十手を預かる身分をかさに着て、なにかと横車を押してくる。

 上田は将軍家の行列に際し目障りな長屋の取り壊しを宇津井に反対されたため、これを根に持ち、宇津井が勤皇派に肩入れしている事実を名和に密告する。怒った名和は宇津井を呼びだし、将軍家に無礼を働いたと根も歯もない言いがかりをつけて首をはねた。

 宇津井の身内で旅から帰ったばかりの喜三郎・市川雷蔵は上田のいやがらせに無抵抗を貫き、組を偽装解散する。宇津井の未亡人・月丘夢路を地元に残した雷蔵は、若衆頭・丹羽又三郎を筆頭に40余名の子分たちへは、仇討ちのその日までなんとしても生き延びるよう言い含め、日本各地へ散り散りにさせた。

 子分らはわらじを脱いだ先々で、出入りの参加を断わって馬鹿にされたり、親戚筋の親分・中村雁治郎から仇討ちをなぜしないのかと問い詰められたり、忍従の日々を強いられる。雷蔵は清水次郎長・島田正吾の助力を得て武器を都合し人目を避けて浜松へ向かう。

 大前田英五郎を名乗って旅をしていた雷蔵の前に本物の英五郎・勝新太郎が現われる。雷蔵から身内の「仇討ち血判状」を見せられた勝は感心し黙って見逃してくれるのだった。

 名和の腹心・天知茂は密偵・近藤美恵子に雷蔵の身辺を探らせる。しかし雷蔵の弟分・小林勝彦の妹が身を賭して名和の城に潜入している事を知った近藤は名和の非道に憤り、雷蔵の一途な気持ちに感激して協力するようになる。

 その頃、有栖川宮・本郷功次郎を擁立した長州軍は浜松に迫っていた。浜松城の軍勢はなかなか手強い。雷蔵は戦闘で手薄になった浜松城に向かった。手始めに上田吉二郎の一家を全滅させた雷蔵は、一気に城内へとなだれ込む。死闘の末、名和を風呂場に追い詰めた雷蔵は仇を討ち取った。

 城内の混乱により動揺した浜松城の軍勢は官軍の敵ではなかった。浜松城下まで進んだ本郷は雷蔵たちの功績を褒め、新政府においては、すべての行いを不問に付すことを約束したのだった。

 義理と人情のやくざ渡世なら親分の仇を子分がまとまって取りに行くってのは当たり前なんじゃないの?などと思いそうだが、この場合、相手が世間的にはカタギであるところがミソ。反権力、反将軍家という点において本作品はちゃんと「忠臣蔵」しているのである。

 忠義の人達が切腹してしまうというのは、歴史的な事実だとしてもやりきれない結末であることは、誰しもが同意するところだ。てなわけなので、この「やくざ忠臣蔵」ではイイ人達は新政府によって救われるのである。

 それにオリジナルの「忠臣蔵」ではあれだけ騒いだけど結局は将軍様は無傷。だけど本作品ではこの後、大政奉還まで行くんだから念が入ってるよね。

 悪役なのにいつもながらニヒルでカッコイイ、小柄だけど渋い天知茂。役どころとしては清水一角、小林平八郎あたりをゴッチャにしたような切れ者。女に手を出さないってところもズルイくらいのカッコ良さ。市川雷蔵の一本調子の芝居(結果的にだけど)に対してヒネリ加減が絶妙なのでファンとしては嬉しいところだ。

 予定調和的な筋立てだと市川雷蔵って全然目立たないのね。繊細な芝居をする見せ場が見当たらなくて、かえって脇で座ってるだけって感じの本郷功次郎とか、共演者を食って食って食いまくる勝新太郎、それに新国劇の濃さをそのままに芝居っ気たっぷりの島田正吾あたりが順当な持ち場を貰ってやりたい放題って感じで印象に残る。

 同様に、討たれるサイドの名和宏も出場が少ない割に目立つ。この人よく見ると凄く上品な顔なんだよね。時代劇演ると身のこなしとか台詞回しなんかは歌舞伎役者みたいにピタリとキマる。色敵としては天知茂とイイ勝負だと思うんだけど、図体がデカイってのが悪役度を高めているわけで、上品さを逆手に取った変態性がやたらと面白いもんだから、後の時代の観客としては「徳川セックス禁止令」の変態大名を思い出して、余計なところでついつい笑ってしまう。

 タイトルの「長脇差」は死を覚悟した宇津井が代貸に託した名刀を貰った雷蔵が、その刀で本懐を遂げるから。タイトルとコンセプトはちょっと似ていそうだが、さあこれから討ち入り!の直前で終わってしまう尻切れトンボの「ギャング忠臣蔵」とは全然違う映画なので勘違いしちゃダメだぞ(しない、しない)。

1999年01月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16