黒い河 |
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■公開:1957年 |
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厚木ベースは戦中は日本軍、戦後は進駐軍に占拠され続けた基地の町。くみ取り式の共同便所に井戸、という当時でも前近代的なバラック寸前のアパートが物語の舞台。 因業な大家・山田五十鈴のところへ生真面目な大学生・渡辺文雄が部屋を借りたいとやって来る。山田に案内されたそのアパートには、アメちゃん相手のポン引き・東野英治郎、土建業のあらくれ者・富田仲次郎、ヒモ・永井智郎とその愛人であるパンパン・淡路恵子、アカの朝鮮人・宮口精二、ニセ学生・佐野浅夫ら、一癖も二癖もある(新劇および新劇出身の俳優たちが扮する)怪しい住人たちが住んでいた。 渡辺はレストランに勤めているウエートレス・有馬稲子と偶然に知り合う。ある日、彼女に片思いの人斬りジョー・仲代達矢が、仲間に有馬を襲わせてちゃっかりアプローチをかけ、そのまま関係を結んでしまう。事実を知らない有馬は「責任をとってもらう」ために仲代に結婚を迫り同棲生活を始めた。 しかし渡辺のことが忘れられない有馬は何度か彼に会いたいと思うのだが、たいていは仲代に妨害されてしまう。仲代は県の地域再開発の計画に山田のボロアパートのある一帯が含まれているという情報を仕入れる。 県庁から派遣された偉い役人・清水将夫は仲代を雇い住人達の立ち退きと、建物の取り壊しを命じた。公金をたっぷりピンハネした仲代は詐欺まがいの手口で同意書に住人達の捺印をとり、市役所の小役人・織田政雄へは清水の名前をチラつかせて許可書をまんまと手に入れる。 最後まで居住者の権利を主張した宮口は、目先の金に釣られてしまう者や自分の利益にしか興味のない住人たちの身勝手さに絶望しついにアパートを後にする。深夜、仲代の手下と富田が手配した大型ブルドーザがやって来て、アパートは瞬く間に破壊された。 大金をせしめた山田は清水の愛人になり、仲代はいつまでも有馬が惚れている渡辺を殺そうとする。自分を襲った犯人が仲代の指示によるものだと仲代から知らされた有馬は復讐を決意する。 仲代の誕生日の夜、有馬は酒に薬を混ぜて仲代を泥酔させ、走ってきた大型ダンプめがけて彼の体を突き飛ばした。仲代の死を確認した有馬は渡辺の方をしばらく見つめた後、夜の闇に姿を消した。 凄いなあ、山田五十鈴。そのまんまだとどうしても上品になるから、作り物の出っ歯をくわえて思いきりお下劣なイメージで登場。自分をクソババア呼ばわりした店子に「てめえ、ふざけんじゃねえ」と怒鳴りまくる迫力には、ただただ頭が下がるのみ。 仲代達矢と小林正樹監督は本作品が初対面ということのようです。確かにねえ、こんだけ監督に気に入られている役どころをもらえば、文字どおり役得ですわね。ハナから渡辺文雄も有馬稲子も仲代の添えものになってますもんね。 ただし、見ているほうとしては解せないんですよ。なんでコイツ、あんなに手下がいるんだろう?って。富田仲次郎とか佐野浅夫に頭を下げさせるにゃあまだまだケツが青いゼ!っていうのが素直な感想です。従いまして、見るほうとしては、ひょっとするとコイツ、クスリやってて、イッちゃったときは手が付けられないんだろうなあ、とか、インテリっぽいから金集めるのが上手なんだろうなあ、とあれこれ想像しちゃうわけですね。 「酔いどれ天使」の三船敏郎みたいな分かりやすい純朴なキレ方じゃなくて、殴っても殴ってもゲヘゲヘ笑いながらいつまでも追いかけてくるようなタイプ、狐つきのような陰惨なキレ方、それが本作品における仲代達矢の怖さです。 「再開発」という甘いおまじないで汚いものを救うことなく抹殺しようとする役人のやり方を、清水将夫の口から「俺はゴジラだよ」と言わせたわけですが、なるほど押し寄せるブルドーザは怪獣に見えないこともありませんね。 ただし、それはあくまでも結果的なものでしてね、破壊する側に十分な理由があるゴジラと、自分の都合しか考えない役人を一緒にしちゃうってのは作り手が怪獣オタクではないという証拠です。仲代達矢のほうがよっぽど爬虫類っぽいので怪獣と呼ぶべきなのはそっちなのかも? 小役人、小市民、と「小さい人物」を演らせるとあまりにもリアルすぎて目を背けたくなっちゃう織田雅雄は今回も「弱いものには強く出る」というヤらしさと人間臭さを爆発させて印象に残りました。パンパンのマネージャー役(やり手ババア、とも呼ぶ)には三好栄子、これも絶品。 しかしまあ、潤いのない映画ですわねえ。 (1999年03月03日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16