空手バカ一代 |
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■公開:1977年 |
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山口和彦監督はとてもサービス精神が旺盛である。派手でわかりやすく、かつ、過剰なためにともすればシーリアスになるはずのシーンが祭りのような華やかさを帯びることがある。これを悪趣味ととるか、その場のイキオイを大切にする映画ととるか、筆者はまよわず後者を取る。 極真空手の大山・千葉真一は親友の柔道家・本郷功次郎とともに沖縄へ。お人好しの日系人悪役レスラー・室田日出男の紹介で米軍基地内でプロレスを興行している悪徳プロモータ・名和宏、日尾孝司に雇われた千葉と本郷は彼らから八百長試合でわざと負けるように命令された。 しかしついつい本気になってしまった二人は米国人レスラーをこてんぱんにやっつけてしまう。ベトナム戦争でくさくさしていた米兵たちはかつての敗戦国民に同胞がやられたのを観て怒髪天をつき、よってたかって二人をリンチしようとする。あわてて逃げ出した三人だが、逃げる途中で千葉がはぐれてしまう。 かっぱらいで生計を立てていた孤児のグループと知り合った千葉は、リーダーの少年と米兵相手のキャバレーのホステス・夏樹陽子が姉弟だと知ったので二人を会わせてやろうとする。夏樹が勤めていたのが名和の息のかかったキャバレーだったため、血眼になって千葉を探していた名和に夏樹が誘拐されてしまう。 元々結核を病んでいた夏樹は拷問されて虫の息のところを発見される。弟に看取られながら夏樹は死ぬ。孤児たちの隠れ家をつきとめた名和は、負傷して匿われていた室田を撃ち殺す。復讐に燃える千葉は本郷とともに、名和たちのボス・内田朝雄(中国人)の屋敷へ乗り込む。 「燃えよドラゴン」の鏡部屋のようなところで内田(約3/4はスタントマン)と戦い勝利した千葉は、そこで宿命のライバル・石橋雅史に出会う。これまた死闘の末、石橋を粉砕した千葉はまるで東映のタイトルバックのような岸壁で「極真空手は永遠なり!」と叫ぶのだった。 女を殴ったり、高圧電流でドブネズミを殺したり、国際プロレスの鶴見五郎を引っぱり出したり、と、単なる悪趣味と言われれば返す言葉が見当たらない本作品であるが、映像のアイデアとそのサービス精神はヒシヒシと受け止めよう!それが大人の観客というものだ。 千葉真一のスピーディーな飛んだり跳ねたりという空手アクションに対して、本郷功次郎の柔道技はタイマン勝負ではなんとかなるが、大勢の敵を相手にする場合はちと厳しい。絞め技かけてる間に他の敵に後ろからボコボコにやられても良さそうなもんだが、それでは映画にならない。納得できなくても我慢せよ。 ベアハッグ!ネックハンギングツリー!とわざわざ字幕でプロレスの技を解説してくれるのも親切といえば親切。現役格闘家の千葉真一はともかく本郷功次郎も学生時代は柔道で鳴らしたクチだからかなり本気の技斗が満喫できる。ま、相手が本職のプロレスラーだからまかり間違って当たっても安心では、あるのだが。 トドメは内田朝雄と千葉真一の「鏡の間」対決。「燃えよドラゴン」では豪華な調度品にかこまれたゴージャスなセットだったが、ここ日本では白ホロゾントにクリスマスの飾りみたいなみみっちいモール装飾のみというかなりチープな状況なのが泣かせる。この監督は鏡の破片を「イレイザーヘッド」のように顔にブツブツと刺した断末魔というのが大好きなので、今回も内田朝雄がしっかりと間抜け面をさらす。 アクションだけではない。孤児の面々とのほのぼのとした交流には日本一の喜劇俳優・千葉真一の本領もいかんなく発揮されている。おまけに一人で内田邸に向かう千葉に途中で合流する本郷のシチュエーションは「昭和残侠伝」の高倉健と池部良のクライマックスシーンのパロディだ。 オハイソなアート系の作品が物足りないなあとお感じの方々には、アクションとエロと人情とナンセンスがすべてが強引な演出でもって展開される青年漫画雑誌的本作品は絶対におススメだ。 (1999年02月23日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16