恐竜・怪鳥の伝説 |
|
■公開:1977年 |
|
渡瀬恒彦は大人だ。どんなにヘッポコな映画でも(「狂った野獣」・参照)、どんなに無茶させられても(「北陸代理戦争」ジープ横転事件・参照)、いつも元気だ。そして堂々と楽しんでいる(ように見える)。 富士山麓の青木ヶ原は踏み迷ったら二度と出て来られないと言われる樹海。今まさに自殺志願の若い女が睡眠薬の瓶を片手にフラフラとやって来る。木の切り株だかにけつまづいた女が落ちた穴にはトトロではなく、不気味で巨大な卵があった。そしてひび割れた卵の殻の間から不気味な緑色の目が! パニックになった女はその後救出されたが、石の卵からのぞいた目玉のショックで収容先の病院で息を引き取った。このニュースを聞きつけた国際的な石材業者の研究員・渡瀬恒彦は仕事をほっぽらかして社長・名和宏が止めるのも聞かずに富士五湖の一つである西湖へやって来る。 そこでかつて恋人同士だったカメラマン・沢野火子と再会した渡瀬は、最初は恐竜の化石で一儲けと思っていたが、学者だった父親が主張し続けた「西湖の恐竜・プレシオサウルス生存説」のほうに興味が移ったので、早速、父親の助手をしていた地元の研究家・牧冬吉とともに調査を開始する。 沢と一緒に来ていたカメラマン助手・清島智子が恐竜に首を食いちぎられた馬の死骸を目撃して精神錯乱を起こす。渡瀬が村の青年団に依頼して捜索してもらったが、すでに「喰い残し」は恐竜が木の上に隠してしまっていた。 西湖はにわかに恐竜ブームにわき上がり、村長の音頭とりでイベントが開催される。その最中、湖底を調査しに潜った沢をゴムボートで待っていた清島がプレシオサウルスに襲われる。警察が本格的な調査に乗り出した。湖底に爆雷を投下して恐竜を誘き出す作戦を慣行中、突如出現したプレシオサウルスに驚いた調査団と観光客が山積みの火薬を大爆発させて全滅。 爆発に誘われたのか富士山麓一体の火山活動がにわかに活発になる。風穴の奥へ入って行った牧冬吉は卵からかえったランホリンクスに喰われてしまった。プレシオサウルスに追いかけ回された渡瀬と沢の目の前で2匹の恐竜が争い始めた時、火山が大噴火。 大した活躍もしないままに、あちこちにできた地割れにあっさりと落下するプレシオサウルス。木の枝にしがみついてジタバタする沢と渡瀬をしり目に、せっかく出てきた怪獣軍団は溶岩に飲まれてしまいましたとさ、ジャン、ジャン。 この映画が1億円くらいで制作されたのだとしたら、観客はきっとこう思ったことでしょう「低予算の割りにはがんばった」とかなんとか。しかし、本作品の総制作費が7億5千万円と聞いた瞬間から多くの観客はその態度を硬化させるのです。 んな大金、一体どこに使ったんだよ!と。 「ジョーズ」の粗悪なパロディ。狂言回しのクセにひとかけらの夢も希望も観客に感じさせない分別盛りの主人公、渡瀬恒彦。アナクロ感覚満載のフォークジャンボリー。「怪獣やでー回虫とは違うんやでー」という素晴しく寒いギャグの連発。ニセモノの怪獣よりももっとニセモノらしい本物の恐竜と怪鳥。 人々が怪獣映画に期待するものをことごとくブチ壊す展開にいちいち目くじらたててもいられないのですが、この後、さらなる悲劇が観客の身にふりかかることになるのでした。 西湖畔の国民宿舎。シャワーの音と女性の楽しげな声が聞こえてきたとき観客はとっても期待したものです。河内桃子や白川由美じゃなくてもいい、せめて、、と。ところがどっこい、画面に大写しになったソイツの背中にはポヨンポヨンと脂肪が波打ち、しかもその面相がただのオバサンだと分かったときの衝撃! 唯一「おおっ」と感心したのは血まみれの馬の死骸で恐竜の不気味さをアッピールしたときと、胸から下をそっくり食いちぎられた女の死体がスッポーンと湖から引き上げられた時、くらいなもんでして。とにかく作品の隅々にまで行き届いた激安なセンスには怒りを通り超してちょっと感激してしまいます。 そいでもって出てくる恐竜というのが、これまた救いようのない出来映え。造形とか云々する以前の問題でしてねえ、なんせ本物のハリボテなんスからねえ、ちょっと蹴ったら穴空きそうな。怪鳥も負けてないんすよ、これが。ただのゴム人形を糸で吊ってるだけなんだもん! で、ラストに画面を埋めつくす溶岩流が出てくるんですけど、これなんかもう、観客の怒りのマグマ以外の何モノでもないと思いますね、アタシャ。もう少し愛が欲しい、、そんな観客のため息すら恐竜と怪鳥のように地面の裂け目にのまれてしまうような気がしたのは私だけではないはず、、。 そう、これは怪獣映画でも恐竜映画でもないのです、ただの「伝説」だったっちゅうオチ、、なのかなあ。 (1999年03月20日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16