帰ってきたヨッパライ |
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■公開:1968年 |
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3人の大学生・加藤公彦、北山修、はしだのりひこ(当時は漢字)が海水浴をしているところからこの映画は始まる。 砂浜に置いた彼等の洋服がいつのまにか学生服と韓国軍の軍服にすり替えられてしまう。その村には朝鮮半島からの密入国者がひんぱんに上陸するため、地元のたばこ屋・殿山泰司や漁師・小松方正らは、見慣れない顔の彼等のことを警察へ通報する。 銭湯へ逃げた三人はそこで謎の女・緑魔子から客の服を盗んで逃げるようアドバイスを受ける。まんまと着替えた彼等の後を怪しい二人の男が追って来た。一人は韓国軍兵士・佐藤慶でもうひとりはやはり韓国人の学生、つまり浜辺ですり替えらた洋服の元の持ち主なのだった。 佐藤はベトナム戦争へ行くのを拒否し、学生は日本への留学を夢見て韓国を脱出した密入国者。北山とはしだに軍服と学生服を着せて身代わりにして殺し、その罪を加藤にかぶせて殺し、行方をくらまそうというのが佐藤の計画。拳銃を持って迫る佐藤の隙をついて逃げ出した三人は緑魔子の手引きでヒッチハイクに成功し村を脱出する。 緑魔子の情夫・渡辺文雄とともに佐藤と学生が三人の後を追いかける。ついに汽車の便所に追い詰められた三人はトンネルを抜ける度に騒音にまぎれてドア越しに拳銃で撃たれ絶体絶命に、、、。 フと気付くと三人はまだトラックの上にいた。ここからはベトナム戦争の戦地で頭を打抜かれる兵士の衝撃的な写真をイメージした夢とも現実ともつかない世界が交錯し始める。 場面はいきなり冒頭の海水浴シーンに。もうあんな怖い思いはたくさんだと銭湯から別の道を行こうとする加藤とはしだの忠告を聞かず、緑魔子の後を追った北山のおかげで再び佐藤に殺されそうになる三人。だが、今度は事情が少し違う。 三人は自分たちこそが本物の韓国人で、佐藤たちは韓国人を殺そうとする日本人なのだと叫び始める。佐藤と学生は身元を証明する術が無い。やはり韓国人だった渡辺文雄は密入国者の所持金を巻上げようと、佐藤らと三人を東京の親戚のところへ送り届ける役を引き受けてくれる。 途中で佐藤と学生を射殺した北山の前から緑魔子が去る。死んだはずの佐藤と学生が実は生きていて、再び汽車の便所に追い詰められた三人。窓の外ではベトナム戦争のイメージがサイケなイラストで展開している。銃声とともに三人は真っ暗なトンネルに入ってしまった、、、。 同じシークエンスが何度も繰り返されたり、トップシーンが途中で白日夢のようにリフレインするので居眠りしてると何が何だかすぐゴチャゴチャになります。これは古典的な怪談話の手法ですね。主人公がバスに乗っていて寝込んでしまう。そのまま行くとバスが崖崩れに見舞われる、だけどこれが夢だった。目覚めた主人公が途中下車すると今度は強盗に襲われ殺されてしまう。何度も起きてはひどい目にあう出口の無い恐怖、ってやつ。 同じ民族問題を提起する「絞死刑」より主役の三人が明らかにノンポリっぽい本作品のほうが、共感を得やすいんじゃないかと思います。一応、当時のアイドル(?)だし。怖い目に遭わされると分かってんのに女のケツを追っかける北山あたりが特に客と同化しやすいキャラクターでは?。クルセイダーズのミリタリールックがどことなく帝国陸軍の軍服みたいなのも意味ありげ。 この映画における渡辺文雄は、「ウルトラセブン」で宇宙人(ペロリンガ星人、だったかな?)とお友達になる天体観測好きの旋盤工を苛めていた工場のオヤジそのままです、実にエネルギッシュです。下衆で無教養で性欲だけはいつも満タン!やはり生地とかけはなれた役どころほど役者というのは上手く演れるんでしょう、想像だけでイケますからね。まさか本作品と「ウルトラ〜」と両方見てる人ってまずいない(当時)だろうな、と思いますが。 そうそうその宇宙人も台詞にSEがかかってんですよね、「帰ってきたヨッパライ」と同じ様に。偶然でしょうけど。 タイトルの「帰ってきたヨッパライ」というのは酔っ払い運転で事故を起こし天国に召された主人公が、酒でしくじった人生をまったく顧みず天国で再びどんちゃん騒ぎをして神様に叱られ、天国を追放され下界に戻ってくるという、当時大人気だった楽曲の題名です。 天国を追い出された先が、地獄ではなく現世というのがミソです。 雄弁な佐藤慶とは正反対に筆談程度の日本語しかできない学生は、クルセイダーズの面々に「スミマセン」と謝ります。いくら謝ってもらっても、殺されたんじゃあ間尺に合いません。学問をしたい!という純粋な希望に一度は気持ちが緩んだ三人ですが結局は自分らが生き延びるために彼を射殺します(実は生きていたんですが)。 突拍子もない不条理ドラマとコントまがいのお芝居から、民族問題というテーマについて理論的に掘り下げて行く過程に噴き出す自己矛盾による混乱が本作品のシナリオ。歌は世につれ世は歌につれの諺が示すとおり、キツいブラックジョークである「帰ってきたヨッパライ」こそが当時の日本人そのものの姿。 日本人と韓国人の関係を敵対させたり同化させたりしながら、現状の課題抽出をユーモアを交えて表現する本作品の、一見するとまったく縁の薄そうなタイトルと内容はこんなところでちゃんと繋がっているんじゃないでしょうか。 (1999年02月23日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16