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サラリーマン忠臣蔵


■公開:1960
■制作:東宝
■監督:杉江敏男
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:森繁久彌
■備考:


 赤穂産業の浅野社長・池部良はハンサムな上に気が若く、大石専務・森繁久弥とともに社員にも人望があった。片や大野常務・有島一郎はグータラな一人息子・三橋達也(えっ?)を溺愛しており社員の評判は甚だ悪い。

 赤穂産業のメインバンクの吉良頭取・東野英治郎は赤穂産業の先代社長・河村黎吉の時代から経営権を狙っている腹黒い奴。おまけにスケベで年甲斐もなく池部の恋人である芸者・新珠三千代に横恋慕しているのであった。

 アメリカからの経済使節団の接待をすることになった東野は、会議の席上で若狭産業の桃井社長・三船敏郎から、土産に用意した骨董品がニセモノだと指摘され赤っ恥をかかされる。東野の意趣返しを警戒した若狭産業の重役・志村喬は東野の秘書・山茶花究に賄賂を送ってとりなしを依頼し事なきを得た。

 使節団来日当日、東野は池部の準備が遅いと難癖をつけ、挙句に新珠にソデにされた恨みもあって池部を罵倒する。一本気な池部はおもわず東野を殴ってしまい接待の役を辞任させられる。ヨーロッパ視察から急遽帰国した森繁を待っていたのは池部が自動車事故死したというニュースだった。

 赤穂産業の新社長として赴任してきた東野は、さっそく池部派の追放を開始。いつのまにか寝返った有島は重役としてそのまま居座った。いきりたつ若手社員、児玉清八波むと志江原達怡藤木悠、エレベータガールの中島そのみ、池部社長の秘書・宝田明、さらに森繁の運転手・小林桂樹らは森繁に決起を促すが、森繁はまったく動こうとしなかった。

 森繁は密かにフランスのアマン社と商談を成立させ、三船から融資の確約を取り付けていた。左遷された重役・加東大介たちの辞表を預かった森繁は、東野の社長就任パーティーの席で余興にかこつけて東野に自らの辞表を叩き付け、新会社設立を宣言し加東らとともに意気揚々と去って行くのであった。

 翻訳モノはオリジナルをどこで、どのように取り込んで見せるかが楽しみ。登場人物の役名がオリジナルと同じである他に、蕎麦屋の山科はうどん屋の山科に、一力茶屋が「イッチー・リッキー」というキャバレーなっていたりするんであるが、中でも可笑しかったのは大石に協力するアマン社のリシェール(役名)さん。後で天野化学の社長というのも出てくるんであるが、これ「アマン(天野屋)」の「リシェール(利平)」という意味だ。

 さすが東宝、「忠臣蔵」と言えどもその都会的なセンスはいかんなく発揮されている。(そうだろうか?)

 三橋達也は基本的にはベビーフェイスだが、今回はわずか七歳しか違わない有島一郎にオネエ言葉で甘えるバカ息子という役どころだ。趣味は狩猟、つまり鉄砲撃ち放題なので日本クレー射撃協会理事という実生活での特技をちゃっかり生かしていてニヤリとさせる。「天国と地獄」でも実証済みであるが、三橋達也は甘いムードの二枚目でありながらこういう根性がひん曲がった役が抜群に上手い。

 サラリーマンものには珍しい三船敏郎。老獪なコメディアンである森繁と並ぶと武骨な三船はいかにも単細胞然としてしまうのはいたしかたないところなのでファンは我慢するように。ま、オーナー社長ってのは大体、優秀な番頭(本作品では志村喬)に支えられているものであるからリアリティがあると言えなくもないんだがね。

 さて、サラリーマンを生業としたことがある観客ならば、登場人物を「ウチの社長(平取〜役付重役含む)」に当てはめて楽しむのが常道である。実社会になぞらえると最も理想的な経営者は誰か?

 金ばなれの良さなら森繁だが金を残すタイプではないので中小企業のオーナーが関の山。育ちの良さなら池部だが堪え性がないところが信頼できない。見てくれでハッタリ効きそうなのが三船だがエエカッコしいなので業績が悪化した時に悪役に徹せられるかどうかは疑問。というのが私の採点である。

 サラリーマン社会においては東野のような経営者が実は最も役に立つ。ビジネスの現場では人情というのは往々にして仇にしかならないものだ。本作品でも経営者となった後の彼の言動には何の落度もない。業績不振の支社を叱咤するだけでなく原因をよく見極めようと努力している姿勢は高く評価されて良い。ただし、人を見る目がなかった、というところがものすごい落度ではあるのだが(致命傷かも?)。

 侍だろうがやくざだろうが、集団で生計を営む全ての道はサラリーマン社会に通じるのである。おそるべし!東宝サラリーマンシリーズ!

1999年01月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16