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ひとごろし


■公開:1976
■制作:大映
■監督:大洲斎
■助監:
■脚本:中村努
■原作:山本周五郎
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:松田優作
■備考:「初笑い びっくり武士道」(1972松竹・コント55号)と原作は同じ。


 ターゲットにつかず離れず、精神的に追い詰めていくアイデアは「子連れ狼」にも似たようなのがあったと記憶している。

 藩主によって見い出された剣豪・丹波哲郎は指南役の身分にあきたらず立身出世を目論む。藩の若手重役・岸田森は知性派で支持者も多く丹波とはライバル関係にあった。この藩にいる若侍・松田優作は道端の野良犬にもビクつく臆病な性格で、その妹・五十嵐淳子からも日々、不平を言われるうだつの上がらない奴だった。

 家老の子息が馬に暴走され、そこを救った丹波がいよいよ野望を遂げようとした矢先、岸田のシンパが夜半に丹波を闇討ちしようとする。その現場に割って入った岸田を丹波は一刀両断にしてしまう。そのまま藩を出奔した丹波に腹を立てた藩主は上意討ちにせよと命じるが、なにせ相手は手強い奴なので誰も討っ手に名乗り出ない。

 そこへ突然、名乗り出た優作。家老たちは冗談かと思ったがあまりにも優作が熱心なのでついに上意討ちの免許を与える。仰天した五十嵐が問いただすと、優作は「このまま腑甲斐ない兄ではおまえに嫁の口がない」と言い残して旅立った。

 国境の山道で丹波に「見つかって」しまった松田は腰を抜かし思わず「人殺し!」と叫んで逃げ出した。丹波をやりすごした優作は、彼の言葉を耳にした百姓たちが丹波のことを怖がっているのを知り、ある作戦を思いつく。

 丹波が茶店で休んでいるのを確認するや、優作は「そいつは人殺しだ!茶を飲ませると殺されるぞ!」を大声で叫んだ。蜘蛛の子を散らすように逃げ出す周囲の人々。宿屋で、一膳飯屋で、丹波に寝る暇も休む暇も与えず優作は「人殺し!」と叫び続ける。飯を喰う事も寝ることもできなくなった丹波は疲労困憊となる。

 見事作戦成功かと思った矢先、隣藩の城下で大騒ぎをしているところを問い詰められた優作は上意討ちの目的を喋らされた挙句に、堂々と果たし合いをしなければならないハメになる。これを聞いた丹波は当然ながら、大喜び。困った優作は一緒に付いてきた宿屋の女将・高橋洋子の目の前で気がふれた芝居をうち、まんまと試合をエスケープ。

 とうとう根負けした丹波はヤケクソになって切腹すると言い出す。俺の首を持って帰れと言う丹波に優作は、首だと腐ってしまうのでチョンマゲの髻だけを貰うことにした。こうして腰抜け侍の不思議な上意討ちは終わった。

 デカイ図体がユーモラスな若侍の優作は袴がツンツルテンなのがとっても間が抜けていてイイ感じ。柱に頭をぶつけて気が狂った演技はほとんどコント状態(暴走気味)なので、寡黙で重厚な丹波哲郎と好対称かつ独り勝ちかと思うと、負けていませんねえ丹波先生。口を開けば武士の面目を吹聴するくせに腹が減ってたまらず畑のキュウリを失敬しようとして優作に見つかった時のオトボケ顔がとてもカワイイ!。

 優作の妹を演った五十嵐淳子が大変に奇麗なので、兄貴の悩みもむべなるかな、です。五十嵐が「このまんまじゃお嫁に行けやしないわ」と愚痴る姿が全ての発端なのですから、優作を必死にさせる要素が五十嵐淳子に欠けていたんじゃあお話が台なしですからね。

 障子の陰で兄を思って泣く妹に対して、利発そうな宿屋の女将さんはどうも私には鼻について仕方ありませんでしたね。若いのにババア臭い、じゃなかった、奥行きのある芝居をするなあと思うんですがこの映画ではイマヒトツなんですねえ。

 逃げる優作に「待って〜」と叫んでコケるんですけどあそこが妙〜にムカつくんですよ、邪魔すんな!って感じでね。この映画の高橋洋子って凄く安っぽいんです。だから後半は観てて辛いものがありました。

 原作が原作ですから面白くならないはずがないんですけど、丹波と優作のタイマン勝負に集中したらもっともっと面白くなったんじゃないのかなあ。

1999年02月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16