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ある街角の物語


■公開:1962年
■制作:虫プロダクション
■監督:手塚治虫
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:
■備考:


 ヨーロッパの裏街にある狭い路地。アパートの壁面にはいろいろなポスターが貼られている。化粧品のコマーシャル、サーカスの宣伝、コンサートのポスター、どれも心が踊るような楽しいデザインばかり。

 ヴァイオリンを弾く男とピアノを弾く女。二人は人間ではなくポスターのイラストである。二人は互いにひかれあい、位置は離れているのだがいつも見つめあって恋人どうしのようだ。

 アパートに住む少女は熊のぬいぐるみをとても大切にしている。そのアパートに「同居」しているネズミの一家、街灯に集まる蛾、小さな世界の平和な毎日はある日、突然かき乱される。

 戦争が始まったらしい。少女の家族はあわてて疎開し、ぬいぐるみの熊はアパートの屋根に置き去りにされる。ポスターはすべていかめしい将軍の肖像に貼り替えられてしまう。それでもわずかなすき間を縫って、ポスターの二人の恋人は逢瀬を重ねた。

 爆撃が激しくなってきた。街灯はへし折れ、アパートのすぐ近くに爆弾が投下された。ネズミたちはあわてて避難する。一匹の子ネズミが雨ざらしにされてひとりぼっちの熊のぬいぐるみを仲間と思って一緒に逃げようとする。そこへ砲弾が直撃した。

 燃るアパート、火の手にあおられたポスターの二人の恋人は空に舞い上がって焼けてしまった。なにもかも破壊された街。やがて戦争は終わり、少女はがれきの下から煤ぼけた縫いぐるみを拾い上げた。ぽっかり顔を覗かせた地面に新しい植物の芽が、復興を予感させて映画は終わる。

 尺が40分かそこらの作品で、台詞は無く効果音と音楽のみ。

 いやあ泣けるんだなあ、コレが。一番小さなネズミがさ、雨が降ってくるとあわてて巣を飛び出して、ビショビショになった熊のぬいぐるみに、ボロ布かなんかをかけてあげるシーンなんてたまりませんねえ。体が小さいからいくら引っぱってもびくともしない熊を火がジャンジャン燃えてるのに一緒に逃げようとする。

 最近、テレビで見たときにゃあ思わず「逃げろ!ネズ公!ぬいぐるみなんかほっとけ!」って叫んじゃいましたよ、いいトシこいた大人(私)がマジで。ネズミの気持ちがすごく良く分かるのね「弱い奴は守ってやらなきゃ!」って人間の一番きれいな気持ちの部分が辛くて切なくて涙溢れてしまうのよ。

 ポスターの恋人もシャレてるの。ほとんど動かない(絵だから)んだけど、驚いたりすると顔の表情がパッと変わる。単純な絵なのに、だからこそ?、見る方の想像力がぐんぐんと膨らむ楽しさ。最近のリアルシミュレーションアニメじゃ駄目なんだよね。劇場で目を凝らして集中してるから、考える余裕がある観客としては本当に考えさせられる映画なのだ。

 戦争になったら自由なんてなくなるんだ!みんな殺されて壊されてしまうんだ!という怒りのメッセージの後に、失われた命への悼みと復活のメッセージが添えられている。

 なんせコレ観たの小学生の頃が最初だったもんですから、大人になってからかの宮崎アニメ「風の谷のナウシカ」のラストシーン見たとき、すぐに思いだしてしまいましたね、この作品のラストを。

 重厚なテーマをシンプルに描いている故に「生きているって素晴しい、命は素晴しい」というメッセージがストレートに、かつ、強烈に伝わってくる。説教くさくないのにメッセージ性が強い映画ってのもあるんだね。大人になってからもう一度観られて本当に良かったと思った。

1999年01月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16