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忍者秘帖 梟(ふくろう)の城


■公開:1963年

■制作:東映

■企画:

■監督:工藤栄一

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:大友柳太朗

■寸評:戸上城太郎、空を飛ぶ!


 織田信長の家臣、羽柴秀吉に弾圧された伊賀忍者たちは故郷を捨てて散り散りになった。両親を殺され、妹が自害に追い込まれた伊賀の凄腕の忍者・大友柳太朗は秀吉に復讐を誓って仲間とともに姿を消した。

 十年後、天下は豊臣秀吉・織田政雄のものとなっていた。大友の師匠・原健策の娘・本間千代子はかつての許婚で大友のライバルだった忍者・大木実が侍に憧れて京都所司代・菅貫太郎に召し抱えられているのを知りとても憤慨する。

 ある日、大友は原から秀吉暗殺に金を出そうという人物がいることを知らされる。それは織田家に出入りしていた大商人・三島雅夫であった。彼はこのまま太平の世が続いては自分が取り扱う兵器の売り上げがさっぱりなので、家康と組んで内乱を起こそうとしていたのだ。

 三島の動きを察知した菅は、大木に大友暗殺を依頼。甲賀忍者の達人・戸上城太郎の娘で、三島の養女でもある女忍者・高千穂ひずるは大友の命を付け狙ううちに彼に惚れてしまう。大友を焚き付けた裏で大木とも内通していた原は、金欲しさから大木と大友を対決させようとするが、大友がこれを見破る。目論見のはずれた原は、戸上を暗殺しようとして返り討ちにされる。

 伊賀の残党たちは原の仇を討つために荒れ寺に集合していた。乞食に身をやつしていた老忍者・花沢徳衛は仲間に蔑まれた腹いせに、仲間の隠れ家を戸上に密告。不意をつかれた伊賀忍者たちは、大木が手引きした甲賀忍者軍団によって全滅させられた。

 大阪城に潜入した大友は長年付け狙っていた秀吉がすっかり歳寄っており、かつての非道を悔いている姿を見て殺さずに去る。大友を待ち伏せていた大木が暗殺犯と間違われて役人に捕えられる。菅は大木を見捨て、秀吉も暗殺者に助けられた失態を隠すため大木が犯人だと証言する。憧れた侍社会に裏切られた大木は絶望し大友の救助を拒んだ。大友は高千穂とともに東屋を借り静かな余生を送ることにした。

 タイトルの「梟の城」と言うのは城持ちの大名になり損ねた大木が「所詮、忍者は暗闇でしか生きられぬ梟のようなもの」と嘆いたのに対して、忍者を捨て市井の人となりささやかでも平穏な暮らしを選んだ大友と高千穂が小さな農家を「あれこそ自分たちの城」と評した事に由来する。

 大友柳太朗といえばそのキャラクターを生かしたスケールの大きい、おおらかで明朗な時代劇が定番だったが、本作品では市川雷蔵あたりが得意そうな、政治に翻弄され闇に葬られていく捨て石としての忍者という役どころを抑制の効いた芝居で見せる。大友柳太朗は甘さ控えめの逞しい風貌の二枚目であるから、このような静かな芝居をさせると何とも言えない凄みが出てきてすこぶるカッコいい。

 この映画の最大の見どころはSFXに頼らない、生身の忍術合戦であろう。手裏剣やら煙幕やら、それに何といっても空中戦があるのが嬉しいではないか。戦うのは大友柳太朗と戸上城太郎である。大柄だがスラっとしている大友柳太朗はともかく、あの巨漢の戸上が空を飛ぶ!んである。まるで水平方向のバンジージャンプのようにワイヤーで吊された戸上城太郎の渾身のアクションに注目せよ!(ってそんなに大したことはないですが)

 本作品は主役の顔がとても分かりにくいという、それまでの東映時代劇ではあまり考えられなかった特徴を備えている。

 対決シーンはほとんどが暗がりの引きの画で、大友も大木も覆面をしているから、よく見ていないとどっちがどっちやらさっぱり分からないのだ(たまに剣会の人だったりするので余計にややここしい)。松方弘樹が演じていた忍者などは顔をほぼ露出していたし、「黒頭巾」がそのほとんどを素顔で通したように、以前の東映時代劇ではスッポリと顔を隠すのは悪役と相場が決まっていたはずだ。

 このような掟破りな演出からも、紙芝居的で無思想なチャンバラ映画から、権力批判という思想が盛り込まれた社会派時代劇への劇的な変化がこの映画からは読み取れると思う。本作品は東映時代劇の歴史上、一種のターニングポイントに位置している作品だと言えるのではないだろうか。

1998年07月26日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16