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陸軍流血史 重臣と青年将校


■公開:1958年

■制作:新東宝

■企画:

■監督:土居通芳

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:宇津井健

■寸評:映画で歴史のお勉強


 満州奪回に失敗した軍上層部と政府に批判的だった中堅将校たちにクーデターの気運が広がる。陸軍将校・細川俊夫らは決起をすべく、実業家・丹波哲郎から資金援助を受け、軍政府樹立のために陸軍の上級将校の説得に奔走する。

 最初の計画は軍の上層部によって阻止され、海軍将校・中山昭二ら首謀者たちは満州の激戦地へ送られ全滅する。細川は憲兵隊の追跡を逃れて身を隠した。残された陸軍将校・御木本伸介らは海軍の将校と士官学校の生徒らに決起を促されるが陸軍上層部の監視が厳しくなっていたため、海軍とその支持者のみで決行することになる。このクーデターでは犬養首相らが暗殺され、後に五一五事件と呼ばれた。

 決起し損ねた御木本は同僚の陸軍将校・宇津井健に相談する。悩んだ宇津井はかつて蘆溝橋事件を日本軍の陰謀であるとスッパ抜こうとした新聞記者・竜崎一郎に、暴力よる革命は絶対に許されないと諭される。ある日、宇津井の部下が妹が女郎に売られたことを悲しみ、仲間の金を盗んで実家に送金するという事件が起きた。人一人が牛や馬のように売り買いされるのと同じ金額で、毎晩メシを食っている財閥や政府の高官がいるという現実を目のあたりにし、竜崎が憲兵に殺されるにおよび、宇津井はついに決起の決意を固める。

 陸軍の長老・小林重四郎らは宇津井や御木本ら青年将校に対し、奸臣討つべし!と励ました。二月二十六日、雪の降るなか多くの政府要人らが惨殺された。宇津井らは立て篭り自分たちが反乱軍にならぬよう、小林ら長老たちに事態の収拾を依頼する。だが御前会議によって宇津井たちは反乱軍であると決めつけられ、討伐命令が下る。宇津井は下士官と兵隊を部隊に返し、自らの正当性を軍法会議の場で主張しようと誓うが、それもかなわず、弁護人抜きの暗黒裁判の結果、彼等は全員、銃殺された。

 二二六事件における「救国、愛国」の精神を拡大解釈した軍部は、徐々に勢力を強めついに太平洋戦争を引き起こすに至るのであった。

 歴史の教育ではきれいさっぱり教えて貰えない部分の経緯が分かりやすく解説されている、とても良い教材である。予算と日程がなかったせいなのか、情緒的な抑揚というのものがまるでなく、かけ足気味に淡々と事が進むので、見るほうは展開される事件の起承転結に集中できるのであるから、ヘタな学校の授業よかよっぽど頭に入る。

 若手将校を焚き付け唆した年寄りが、勅命という金科玉条をタテにあっさりと手のひらを返して、彼等を説得する側に回る姿に背筋の寒くなる思いがする。この世には二人の老人がいる。自分がやりたかったことを若者にやらせようとする老人と、自分の過去の過ちを二度と若者に繰り返させるまい思っている老人である。

 大体、後者は説教っぽくなり、前者の言い分のほうが耳に心地よい場合が多いのである。若いモンに甘い言葉で近づいてくる年寄りには気をつけにゃイカン、特に紳士面をする奴らには。

 結果的に反乱の呼び水となったエキセントリックな将校を演じたのが沼田曜一。眉を剃り落としたその表情は、町中で出会ったら心臓が止まるほどの不気味さ。彼はイキナリ登場して、反乱に批判的だった参謀を一刀両断にしてしまうのだ。わずか3分ほどしか登場しないのだが、本作品の狂気を一人で体現してしまったような印象。

 このような熱血将校であってもスーパージャイアンツの時とほとんど同じ表情の宇津井健。不器用な生真面目さもここまでいけば天晴!である。片二重の三白眼が完璧にイッちゃってて沼田曜一よりコワイかも。

 男性が圧倒的な映画だが、細川俊夫に協力する新橋芸者役に大蔵貢社長の愛人だと大騒ぎされた高倉みゆき、竜崎一郎の娘役で三ツ矢歌子が出ている。

1998年08月13日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16