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野獣都市


■公開:1970年

■制作:東宝

■企画:

■監督:福田純

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:黒沢年男

■寸評:


 身寄りのない貧乏学生・黒沢年男は優秀だったが学生運動たけなわの大学では満足に勉強もできず、金も身寄りもないままに悶々とした学生生活を送っていた。銃砲店でアルバイトをしていて知り合った実業家・三国連太郎の勧めで彼の運転手となった黒沢は、射撃の腕を見込まれある人物の殺害を依頼される。

 戦後の混乱期に麻薬の密売でのし上がった三国の過去をネタに強請りに来たかつての仲間・小松方正と彼のスポンサーである暴力団の殺し屋二人を射殺した黒沢は、三国に運命共同体のような親近感を感じた。

 三国の一人娘・高橋紀子は政略結婚をすすめようとする父に反発して奔放な生活を楽しんでいた。金持ちのわがまま、そして何より三国が気の毒に思えた黒沢年男は、フィアンセ・伊藤孝雄がありながら自分を誘惑した高橋をモーテルで強姦した。

 伊藤の父親・清水将夫は右翼の大物・北竜二と手を組んで三国の会社を食い物にしようとしていた。伊藤はその手先として、不審火で工場が全焼したため暴落した三国の会社の株を買い占めていた。三国が処分した麻薬密売の証拠を狙ってやくざ・青木義郎が黒沢を痛めつけた。

 三国と黒沢は伊藤を誘拐し、青木は高橋を監禁して人質交換を申し出る。三国は娘かわいさから伊藤を解放した。親子の情を選んだ三国。しかし、黒沢の一瞬のスキをついた青木の手によって三国が連れ去られてしまう。黒沢は青木の組事務所に乗り込み、青木を射殺し組長・大滝秀治に重傷を負わせた上で彼を連れ去りし大滝の身柄と引き替えに三国を取り戻そうとする。

 北に解放された三国は廃人同然となっていた。黒沢は泣きながら彼を殺した。

 黒沢は伊藤を脅して北の別荘に向かう。北とその手下を射殺したが瀕死の重傷を負った黒沢を助けに来たのは高橋紀子だった。追跡の警官隊に撃たれながらもついに振り切った高橋は黒沢に「父親がかわいそうだから仇を討った」と言う。

 黒沢は三国の愛情が報われたことを心から喜んで死んで行った。

 福田純監督が東宝の専属俳優しか使えなかった時代の作品と、専属俳優の大量解雇、五社協定(実際はもっと前からガタガタだったけどさ)なんて関係ないもんね!となった時代の本作品と比べてみると実に面白い。

 三国のあたりかまわず喰いまくる存在感は、控えめを美徳とするような東宝のスタアたちにはとうてい無理な芸当だったし、なってったって知性派だけど汚い手口もオッケーな悪役に青木義郎が使えたのが良かった。東宝だったらどんなにがんばっても中丸忠雄か平田昭彦になっちゃう。この人達では青木のようなリアルで怖いキャラクターは絶対に演じられなかったからだ。

 本作品のようなアクの強い出演者と当時のなりふりかまわない時代の風潮を得て、この監督の日本人離れした、ハリウッドの馬鹿映画ばりのキワモノ感覚がここへ来てやっと大噴火した感じ。

 三船のコピーみたいな風采で、ざっくりとした線の太さだけが強調されがちの黒沢年男だが、本作品のようないわゆるモダンアクションの世界において、かくも魅力的であったことはもっと有名になったほうが良いと思うな。

 男性的な魅力というのは、粗雑でおおざっぱな事や下半身バリバリのセックスアピールだけじゃダメなのよ。少年のような純粋さとでも申しましょうか、ピュアなハートというやつが、そのなめし革で包んだような無駄のない肉体に潜んでいて欲しいのよね、こういうハードボイルドな世界では特に。

 相手役の高橋紀子も印象的。単なる美人な清純スタアには醸し出せないアグレッシブな自己主張の強さは現代でも大いに共感されると思う。自分も負傷しながら黒沢を庇って逃避行する姿にはどんな言葉よりも熱い愛が感じられる。

 黒沢の死体に口づけをした高橋がそのまま二人とも死んでしまったのではないかと思わせるラストシーンに胸がしめつけられる思い。「トゥルー・ロマンス」なんか鼻で笑える、そんな映画。

1998年08月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16