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佐々木小次郎


■公開:1967年

■制作:東宝

■企画:

■監督:稲垣浩

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:尾上菊之助

■寸評:私のイメージに限りなく近い宮本武蔵


 郷士の家で跡取り息子・土屋嘉男、妹・星由里子とともに兄弟同然に育てられた捨て子の小次郎・尾上菊之助は剣の腕前も立ったが鼻っ柱が強く、家を継いだ土屋となにかと対立するようになった。菊之助は星が好きだったが、彼女は菊之助の親友の郷士の息子・中丸忠雄の許婚になっていた。兄と対決することになった菊之助を心から愛していた星は、菊之助とともにかけおちしてしまう。名門道場の師範を打ち負かした菊之助はいよいよ剣の腕前に自信を持ち始める。山狩りをする土屋の先を制して馬で二人の後を追った中丸は、菊之助に「星を譲る」と約束して見逃してくれた。

 土屋の家臣たちに追いつかれ星と離れ離れになった菊之助は、武者修行のために京都へ向かう。途中、気の良い盗賊・長門勇と出会った菊之助は、秀吉の寵臣、そろり伴内・市川中車と出会う。大阪城へ招かれた菊之助は出雲の阿国・三益愛子の舞に感動し、自分の剣に取り入れることにした。死期の迫っていた中車は、死ぬ前に謀反を起こしてみたいと言い、海賊・戸上城太郎を紹介するが菊之助はこれを断わったために、命を狙われることになる。

 中車と土屋の両方に追われて、阿国の弟子と一緒に暮らし始めた菊之助は秘剣・つばめ返しを編み出す。星のことが忘れられない菊之助の苦しむ姿を見た阿国の弟子は身を引くために自殺してしまう。

 菊之助とはぐれた星は中丸と一緒にいた。中丸は実は隠密だったので、星との結婚には消極的で、できれば菊之助と添わせてやりたいと思い、小次郎を探したいという星の願いを聞き入れて一緒に旅をする。長門から星の消息を聞いた菊之助は中丸に裏切られたと勘違いをして星のことを諦めようとする。

 長門の紹介で、菊之助は堺の豪商・三橋達也に匿われる。三橋の邸宅で、琉球の王女・司葉子と出会った菊之助は彼女に淡い恋心を抱くようになる。その頃、中車の謀反を探索するために堺に来た中丸の後を、復讐鬼となった土屋が追ってきた。

 土屋は星を誘拐し菊之助を誘き出す。千之利休の追膳法要がはなばなしく執り行われている最中、寺を取り囲んだ戸上たちと、中車を見張っていた中丸が斬りあいになり謀反は堺の町に一気に広がった。騒ぎを聞きつけた菊之助は奉行所へ走る中丸を援護すべく、海賊たちを相手に大立ち回りをする。

 菊之助の活躍は細川家の藩主・平田昭彦(様)の知るところとなり、指南役の口がかかるようになった。星の行方が心配だった菊之助は、いよいよ宮本武蔵・仲代達矢との対決を前にして旅路についた。同行した長門とキリシタンの部落に迷い込んだ菊之助はそこで、洗礼を受けて百姓になった中丸と星に出会う。人をだまして生きる隠密がいやになった中丸は星のことが諦め切れなかったが、菊之助のために彼女への思いを断ち切ろうとキリシタンになったのだった。

 菊之助は感激し、星に再会を誓って、船島への同行を中丸に頼んだ。決闘の時刻が迫る。遅刻した仲代の不戦敗を具申された菊之助は堂々たる勝負を希望して武蔵を待ち続けた。やっと到着した仲代と対決する菊之助、激しい斬りあいの末に菊之助は敗れた。

 佐々木小次郎を主役にした本作品では武蔵はかなりエキセントリックな人に描かれている。はっきり言えば「チャンバラ・オタク」そのものである。それをまた仲代達矢が偏執狂気味に演じるもんだから、ますます「キテる人」に見えてしまった。でも私が描いていた武蔵のイメージはズバリ、こんな感じだったので妙に納得してしまったのだけれどね。

 菊之助は歌舞伎の花形さんなので映画の前半、野性味たっぷりの小次郎は物足りないが、後半、細川家にハデハデの陣羽織をもらってからはさすがにカッコイイ。下衆な役者が着たら単なるチンドン屋になるが、女形もできるかわいいマスクによく映えて、まるでお人形さんのようだ。チャンバラは背筋と立ち居振るまいがピシピシっと決まるのでこれまた美しい。

 菊之助の後を執念で追う土屋嘉男に対して、スパイというハードな身の上だがあくまで優男な役どころの中丸忠雄。逆だろう?普通は。余談だが、ちょうど二人とも「日本の一番長い日」の撮影に入った頃なので、特に中丸忠雄はほぼ確実に坊主刈り状態だったはず。土屋嘉男ともども、ヅラを載せるにはちょうどよかったんだよね。この二人は乗馬も巧み(ちゃんと馬にハミ受けさせられる)なのでこういう技術的に水準の高い人が出てくると、単なる「騎馬シーン」も厚みが出てくる。ただし、見る人が見た場合に限るんだが。

 ラストシーンの星由里子が凄く良かった。村に帰ってくる二騎の土煙を見つけたときの期待に満ちあふれた顔。それ(馬上は長門と中丸)がいよいよ近づいて来たときに、菊之助の敗北を確認してその顔がサッと絶望の色に変わる瞬間。観客の共感を200パーセント得る、素晴しいエンディングだ。

 戦後の稲垣浩の時代劇はどうもいただけない、と言う人が多いみたいだけど、この作品はかなりイケてるんじゃないのかなあ。菊之助はもちろん、頼もしい助っ人の戸上城太郎や、吉田義夫まで東映から来てもらってるし。やっぱちゃんと時代劇の様式をマスターした役者がいないとこの監督の場合はダメみたい。

1998年07月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16