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黒薔薇の館


■公開:1969年

■制作:松竹

■企画:

■監督:深作欣二

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:丸山(三輪)明宏

■寸評:素材に魅入られた料理人が作った料理はマズい


 実業家・小沢栄太郎が田舎で経営しているサロン「黒薔薇の館」にある日、絶世の美女・丸山明宏がやって来る。名前以外は彼女の身元を誰も知らず、黒い薔薇の花を片手に、影のようにつきそう混血少年とともに夜8時になるとサロンに現われ愛の歌を歌ってまた去って行く。小沢は丸山にすっかり魅入られ彼女のパトロンになる。小沢や彼の親友・宇佐見惇也、作家の梶岩慎太郎・穂積隆信らはしきりに丸山の素性を聞き出そうとするが、彼女はなにも答えようとしなかった。

彼女が来るようになってから、サロンには連日、丸山の関係者を名乗る人物が次々に現われる。貧相な老人・西村晃は「彼女は俺の女房で気違いだ」と喚き、孤独な青年・川津祐介は彼女への愛を告白した後で自殺した。乱暴なマドロス・内田良平は彼女を独占しようとして混血少年と刺し違えて死んだ。なにもかも彼女の謎めいた過去を説き明かす糸口にはならなかった。

 丸山を愛してしまった小沢にはちゃんと家族がいた。すべて親の期待通りエリートコースを歩んだ長男・室田日出男、その妻・松岡きっこ。そこへ家出をしていた次男・田村正和が久々に戻ってくるが、田村は抑圧的なこの家庭を嫌がり、かつて恋人と駆け落ちしようとして事故に遭い半身不髄になった母・宝生あや子からこづかいをせびって再び姿を消す。

 サロンで丸山に出会った田村は、最初は彼女を拒絶するが、丸山の自然で純粋な人柄に触れ彼女を愛するようになる。田村の荒んだ心は丸山によって癒され、丸山も田村も互いにかけがえのない存在であることを実感した矢先、田村は父親への反抗心から仲間・曽根晴美とともに麻薬の取り引き現場を襲って金を奪う。

 警官に撃たれて傷ついた田村は丸山と二人きりで外国へ逃げようとする。疾走するモーターボートの上で田村が丸山に愛を打ちあけた瞬間、ボートは大型船に衝突し大爆発する。翌日、二人の遺体を確認しに来た小沢に刑事・小松方正が「丸山の素性が分かった」と言うが、小沢にとってはもうどうでもいいことなのだった。

 坂東玉三郎はよく訓練された名女形であるが、素顔はまるっきり男である(異論はあろうが気にしない)。ところが美輪明宏は、素面からして完璧な女形だ。女性ではない、女を形取った異性なのである。奇麗だと思うかグロテスクだと思うかはすべて見るほうの自由なのだ。美輪明宏という人はそういう自由を惜しげもなく見るものに与えてくれるところが凄いのである。

 深作欣二でさえ彼の虜になったのか?監督が役者に惚れたんならまだしも魅入られたんじゃあハナから「負け」が自明の理であった。

 映画の前半、西村晃や川津裕介、あげくは内田良平まで引っぱり出して作り上げた耽美で濃厚なムードが、後半、まるで二昔前の少女漫画に出てきそうな田村正和との薄っぺらな恋愛劇のおかげで台なしなってしまうし、何といっても陰湿なエリートという奇抜な味わいを見せた室田日出男が全然沈んでしまっているのが惜しい。素材と意気込みはイケてるのに、、、と、あれこれ見るほうを悔しがらせるので、なんともモッタイナイ映画であった。

 ところで穂積が演じた作家の名前は「梶岩慎太郎」というのだが、これって梶山季之と黒岩重五と石原慎太郎の合体だよね?こーゆーところで遊んでんじゃないっつーの!と思いつつ笑ってしまったぞ。

1998年08月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16