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みな殺しの霊歌


■公開:1968年

■制作:松竹

■企画:

■監督:加藤泰

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:佐藤允

■寸評:菅井きんに強姦された少年を救え!


 男・佐藤允がマンションの一室で女・応蘭芳を痛めつけ、4人の女の住所を聞き出した後、ナイフで惨殺するという事件が起きる。凶行の後、佐藤は腹を減らして食堂に行く。手を怪我していた佐藤にだまってフォークを差し出した従業員・倍賞千恵子に興味を持った佐藤は、その店に毎日顔を出すようになる。佐藤は応が書き残したメモに載っていた鎌倉の有閑マダム・中原早苗をホテルに呼び出す。翌日、中原は絞殺死体で発見された。

 刑事・松村達雄は所轄の巡査・大泉滉から、最初の犠牲者である応のマンションで1ヵ月前にクリーニング屋の少年が飛び降り自殺したという報告を受けていた。この少年の遺骨が置いてある下宿を訪れた佐藤は「同じ北海道出身」であることを女主人に告げて去って行った。

 第三の殺人が起こる。一見、何の関係もないように見えた被害者たちは同じ高校の出身であることが判明する。飛び降り自殺事件のあった前々日に、応のマンションには5人の同窓生が集まっていたこと、自殺した少年は応の部屋に1時間くらいいたこと、など事件の手がかりが徐々に分かってくる。

 4人目と思われるデザイナー・菅井きんが講演先の北海道で殺される。店を休んでいる倍賞を心配した佐藤に、主人はある事実を告げた。倍賞はたいへんな兄思いだったが、貧しさから彼はやくざになり両親に暴力をはたらいて金をせびるようになった。ある日、たまりかねて倍賞はその兄を刺殺してしまった。健気な彼女を助けようと主人が努力した結果、倍賞は現在、執行猶予中の身の上なのだった。

 倍賞のことを真剣に好きになった佐藤の周囲に捜査の手が伸びる。佐藤はかつて自分の妻が友達に犯されたのに耐え切れず殺してしまった過去があった。彼は身分を隠してマンションの傍の建設現場で働き、そこでクリーニング屋の少年に偶然に出会ったのだ。同じ北海道出身で月給のほとんどを家族に仕送りしていた少年を励ますためになにかと世話をしていたのが佐藤だった。

 最後の殺人は、佐藤の影におびえた女が自殺するためにマンションを訪れた時に起こった。女の口から事件の真相が明らかにされる。少年が自殺した前々日、暇をもてあました5人の同級生がマンションでブルーフィルムを見ていた。その時、ちょうど配達しに来た少年を女5人で強姦したのだった。ショックを受けた少年は佐藤に会いに行った後、マンションに戻って屋上から飛び降りた。佐藤は最後の女を殺し、倍賞の名前をつぶやきながら、警官隊の目前でマンションの屋上から身を踊らせた。

 「弱いものを守り切れなかった辛さ」というテーマは本作品のようなモダンな映画でも脈々と生きている。冒頭の1シーンから薄皮を一枚ずつ剥がすように、当事者の口からではなく、関係者の証言として事実が少しずつ明らかになる展開の面白さ。伏線が伏線を呼び、突飛でもないストーリーにぐいぐいと引き込まれていく心地よさ。

 佐藤允はその味わいの9割をマスクに依っているように思われるが、実際そうだ。親から受け継いだもの、映画俳優はその生地で運命が決まるというのは本当なのだなあと実感。別に技術がないということではないですよ、相対的に、ということです。岡本喜八作品とはまた違った、静かな魅力が堪能できてファンとしては嬉しい限り。

 残虐な殺人シーンにおける佐藤の「凄み」が、倍賞の前では信じられないくらいの優しさに変わる。倍賞の嫌味のない健気さの裏に潜む、佐藤のソレとは違うもう一つの「凄み」。無駄のないシャープなシーンに、必要最小限の台詞回し、本作品を観たあとのえも言われぬ充実感は残念ながら最近の映画にはまったく感じられないシロモノなのだ。

 ラスト、引き千切った佐藤の手配写真を雨に濡れながら繋ぎ合わせる賠償の、指の間から束の間の幸せがばらばらとこぼれ落ちていったように見えてなんとも切ない幕切れだが、観終わった後、妙にメルヘンチックな思いに囚われてしまう、とても上質なおとぎ話。

1998年07月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16