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右門捕物帖 卍蜘蛛


■公開:1962年

■制作:東映

■企画:

■監督:河野寿一

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:大友柳太朗

■寸評:明朗時代劇の定番。


 江戸で人気歌舞伎役者が舞台の最中に殺される。役者の身辺に捜査は集中するが、名推理が売り物の同心、むっつり右門・大友柳太朗は、早変わりが見せ場のその舞台で事件が起きたことに注目する。犯人の狙いは替え玉役者のほうだった。現場にかけつけた右門のライバル、筆頭同心・進藤英太郎とその子分・南道郎は現場から逃げようとした若い浪人・里見浩太朗を犯人と決めつけて追いかけまわす。里見は殺された役者の娘・花園ひろみに自分は無実であると言い残して江戸を出奔する。

 奉行・黒川弥太郎から、犯人は島抜けした罪人であり彼は病気で余命いくばくもないことを知らされる。罪人は下田の海賊で、捕まった後も奪った財宝のありかは不明なままだった。やがて発見された罪人と替え玉役者の死体には奇妙な卍蜘蛛の入れ墨があった。役者の殺害現場に残されていた遺留品から、ある浪人の名前が捜査線上に浮かぶ。進藤はそれこそが里見に違いないと読むが、彼はすでに3年前に死んでおり、里見とは親子ほども年齢が離れていた。

 身分を隠して下田に潜入した右門は、現地で三年に一度開催される唐人祭りに注目する。地元の豪商・柳永二郎は唐人廟の管理人をしている金髪の混血美女・桜町弘子の養い親。右門が霧島に会っている頃、父親殺しの真相を知るために花園も下田に来ていた。

 唐人廟に忍び込んだ右門はそこで海賊が隠した金貨を発見する。里見は3年前に死んだ浪人の息子だった。彼の父親は汚職をしていた同心・三島雅夫に罪をなすり付けられて自害していた。 卍蜘蛛の入れ墨があった罪人は、元仲間だった替え玉役者に裏切られて島送りになっていたのだった。

 柳と商売仲間の原健策も元海賊で、三島は彼等と手を組んで抜け荷(密輸)をしていた。桜町の両親を殺した柳は罪滅ぼしのためにに彼女の面倒をみていたのだった。里見は原を倒し、三島は金貨を独り占めにするために柳を殺した。後を追った右門の目の前で桜町が三島を射殺する。やってきた役人たちに右門は「三島は罪を恥じて自害した」と嘘の報告をした。

 右門シリーズは明朗時代劇の部類であるが、推理劇としてもよくできている。トリックと言えるほどの凝ったシロモノではないが、始まってすぐ犯人が分かってしまうような単純ではない筋書なので終盤まで退屈しないで済む。

 リリカルな金髪美女、海賊仲間の証であるグロテスクな卍蜘蛛の入れ墨、衆人環視の中で射殺される被害者、ミステリアスな唐人廟のセットなど猟奇的な味つけもあって見所も多い。

 主役の「むっつり右門」は要するに無口な知性派なのであるが、大友柳太朗が演じるとどこかヌーボーとしていて、大人然とした爽やかさがさらに加わって良い。武骨な雰囲気の大友と、げっ歯類なみの運動量とスピード感を持つおしゃべり伝六・堺俊二のコンビネーションは絶妙。

 大友柳太朗の最大の持ち味はその爽やかさと明朗さである。また、見た目の分かりやすさとともに、大柄な体を生かしたパワフルでスピーディーな殺陣のうまさも見逃してはならない。おおらかでチャンバラが強い色男。「黒頭巾」や「丹下左膳」とともに大友柳太朗は当時の観客が求めた時代劇のヒーロー像をほぼ完璧に体現していたのである。

 チョンマゲを最も美しく見せる役者の中の二人、黒川弥太郎と大友柳太朗が並んでいると、里見浩太朗でさえ現代っ子風のケチな小僧に見えてしまう。役者は美しくあるべし、男っぷりのよい役者というのは余計なことを言わずとも、見ている者を本当に幸福にさせるものだ。

1998年07月12日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16