一刀斎は背番号6 |
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■公開:1959年 ■制作:大映 ■企画: ■監督:木村恵吾 ■助監: ■脚本: ■撮影: ■音楽: ■美術: ■主演:菅原謙二(次) ■寸評:マグワイヤよりも凄い! |
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奈良の山奥で母親と二人暮しをしていた剣豪、伊藤一刀斎・菅原謙二が合気道の名人を慕って東京へ出てくる。菅原の風貌は袴姿にザンギリ頭、おまけに髭面で「さよう、しからば」の侍言葉という超アナクロなスタイル。好物は天丼。名人の消息を探すついでに東京タワーの近所の宿屋の娘・叶順子とともに東京見物に出かけた菅原は、後楽園球場で催された素人参加の競技に飛び入り参加し、西鉄のエース・稲尾和久(本人)から大ホームランをかっとばしてしまう。 生まれて初めて野球をやった菅原だったが、その珍妙なフォームは名解説者・小西徳郎(本人)や、野球好きの作家・五味康祐(原作者、本人)からも絶賛される。大毎オリオンズのスカウトマン・多々良純に呼ばれた菅原は、田宮謙二郎(本人)、山内和弘(本人)、西鉄の中西太(本人)らが見守る中でもう一度、稲尾と対決しやはりホームランを打つ。 大毎の監督・十朱久雄に入団を勧められた菅原は、飛んできたボールから反射的に身をかわしてしまうため、守備が全然できなかったので、代打専門としてプロ野球にデビューし、39打席連続、代打ホームラン率100パーセントというマグワイヤもびっくりのホームランバッターになってしまう。 叶は菅原のことが好きになってしまうが、父親・菅井一郎と母親・浦辺粂子から婚約者・小林勝彦との結婚をせっつかれていた。一方、菅原はたくさんの商品を貰って大スターとなるが合気道の名人に会いたい気持ちは変わらず、私生活は質素そのもの。近所の踊り子・春川ますみに誘惑されてもアタフタするだけで、全く女っ気もナシなのだった。 そんなある日、探し求めていた合気道の名人が客死したという知らせが届く。地位や名誉に執着心がまるでない菅原は故郷に残した老母を心配し、日米野球を最後に帰郷する決意を固める。叶の思慕を知りながらも、菅原は心を込めて最終打席に向かい、米国選手から特大ホームランを打ち、叶に爽やかな別れを告げた。 菅原を追いかけ回す新聞記者・滝田裕介の助手の女性カメラマンは、現在ではマナー評論家になっている市田ひろみ。すでに30年以上も昔の映画なのにその容姿にほとんど変化がないのは脅威である。老けないのか?それとも、昔からオバサンっぽかったのか?またはその両方か?(正解は3番!) 時代錯誤も甚だしいが、その朴訥とした行動に郷愁にも似た日本人の根源的な安堵感を醸し出す、主役の一刀斎に菅原謙二。今や新派の大俳優だが元々は映画の人なのである。一本調子の二枚目で、柔道映画に立て続けに主演したため「柔道俳優」とまで呼ばれたが、実際は「線の細い三船敏郎」といった風采で、ヌーボーとした好青年役あたりがイケるポジションだった。 肉体派でありながらも、あるときは家庭環境が複雑だったりする硬質な役どころが得意な大映の美人女優の叶順子だが、本作品では、ちょっと間が抜けていて、よく喋る明るい江戸っ子娘というのは、ちょっと珍しい役どころか。菅原に露骨なモーションをかけるキャバレーの踊り子、巨漢の春川ますみと大乱闘を演じたりもするが、故郷へ帰る菅原への思い断ち難くも、両親を安心させるために小林と添い遂げようと決心するいじらしい女心がこれまた可憐。実に複雑な階層構造を持つ女優さんであることを実証。 本作品の監督の木村恵吾は「狸御殿」モノの監督として有名である。ところで、狸御殿シリーズを「ミュージカル映画」と呼ぶのはちょっと違うんじゃないだろうか、と思っている。ストレートプレイの台詞を音楽的に表現するのがミュージカルなのであって、一連の狸映画は「レビュー映画」と呼ぶのが相当だと私は思っているから、日本にミュージカル映画が根付かなかった、というのは正確には「レビュー映画が育たなかった」と言うべきなのではないだろうか。 だからと言って、狸映画の巨匠・木村恵吾の手腕にケチをつける気はさらさらない。本作品でも多分に舞台的な分かりやすさと台詞のテンポのよさは、時代を感じさせないほどのモダンさがある。キャバレーのシーンや、ギターを抱えて歌いながら一刀斎を誘惑する春川ますみのシーンに、オペレッタ喜劇らしい手慣れた感じがあって、さすがと思わせる。 プロ野球をモティーフにしながらも、その正体は甘酸っぱいラブコメディである。 西鉄ライオンズと大毎オリオンズの有名選手がたくさん出ているらしいのだが、私が分かったのは稲尾と中西と山内くらいのもの。出演者には名審判員と呼ばれた二出川さんの名前もあるから、オールドな野球ファンには当時の選手名鑑としてうれしい映画かも。 (1998年07月12日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16