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ふたり若獅子


■公開:1959年

■制作:東映

■監督:深田金之助

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:東千代之介

■寸評:一流ホテルの三等部屋はとってもおトク


 尾張家の三男坊である新九郎・東千代之介は目あかしの家に居候しながら気ままな町人暮らしをエンジョイしていた。ある日、印旗沼の埋め立てに関する不正を名主の一人息子・伏見扇太郎から聞いた千代之介が探ってみると、代官・阿部九州男が老中の田沼意知・柳永二郎に賄賂を贈って埋め立てのお墨付を貰おうとしているらしい。

 埋め立て事業は長期的な大事業であり、地元漁師の生計と採算性を考慮すると利益がないと判断した尾張大納言と松平越中守は上様に異議を唱える。賄賂はもう貰っちゃったので焦った田沼は、偽のお墨付を作って代官に渡した。

 かねてより田沼の不正の証拠を探していた越中守と東は偽のお墨付を手に入れようとする。ちょうどそこへ、名主の息子で今は義賊になっていた伏見扇太郎が現われて協力を申し出る。伏見はまんまと偽のお墨付きを盗み出すことに成功したかに見えたが、あと一歩のところで田沼に取り入りたい大商人・吉田義夫の用心棒・原健策に見つかる。駆けつけた千代之介は原と対決するが、互いの腕前を認めあって清く分かれた。証拠の品は無事に越中守の手に渡った。

 田沼からポイントを稼ぎたい吉田義夫は原健策に、東の恋人・千原しのぶを誘拐してくるように命じる。原は女郎屋から逃げ出した商家の娘・円山栄子とともに荒れ寺に身を隠していたが、とうとう捕まり、千代之介を誘き出すエサにされる。千代之介は千原を助けに来て吉田の罠にはまり幽閉されてしまう。してやったりの田沼は情深い越中守に、千代之介の命と引き替えに偽のお墨付を渡すように迫る。

 田沼の屋敷へ赴いた越中守は千代之介を助けるために証拠の品を渡そうとするが、今度は伏見扇太郎が千代之介を救い出した。越中守は一目散に城中へ馳せ参じ、田沼の不正を報告した。田沼は失脚し、印旗沼の埋め立ては中止され漁師たちの生活は守られたのだった。

 無頼の用心棒、原健策は千代之介と五分の腕前。最後の対決では抜いた刀で自分の鞘を真っ二つにして、千代之介に向かっていく。覚悟の勝負は千代之介が勝つが、正々堂々の勝負に感心した千代之介は原を斬らずに去ろうとする。金のためとはいえ己の悪事を恥じた原は千代之介の背後から無茶に斬りかかり、わざと討たれて死ぬといういわば善玉的な役どころで味を残す。

 東千代之介は出自が踊りであるから出尻で鳩胸。ついついシナを作っちゃうところがご愛敬だが、絵草紙そのままの古典的な顔立ちでさすが時代劇スタアの金看板らしい二枚目ぶり。後に子供向けの、踊る戦隊モノ「バトルフィーバー」にレギュラー出演したときは往年のファンの度肝を抜いたが、真面目な千代之介は堂々たる日舞を披露し、挙句は怪人とススキ野原で一騎討ちまでやらかしてくれた。くだけた大スタアである。

 伏見扇太郎はこの頃活躍した時代劇スタアの一人だったが、錦之助や千代之介に比べると華に乏しく、庶民的だった。時代劇でいま一つ冴えない顔というのはつまりは近代的な顔立ちであるということ。ハンサムではないけれどチョンマゲがなければなかなか好青年の雰囲気でテレビの時代まで生き延びればまだまだ活躍できたのでは?と思う。この作品の前年に結核にかかり長期療養していたのでフルスピードの活躍はなかったが、イキな町の若衆という感じでさわやかなナイスガイというところ。

 身分違いの恋を、かなわぬものと絶望した千原しのぶが一人で声を殺して泣くあたりも実に情緒があって良い。プログラムピクチュアにジャンル分けされる作品であろうが、カメラが丁寧だしワンシーンごとに情感があふれていて泣かせるところも、ワクワクするところちゃんとタイミングよく登場する。これが量産時代劇という低いランクに位置していたというのは驚きで、当時の東映時代劇がいかに隆盛を誇っていたかがよく分かる。

 つまり、上等なホテルの三等の部屋はとてもおトク、ということだ。

1998年08月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16