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あなた買います


■公開:1957年

■制作:松竹

■監督:小林正樹

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:佐田啓二

■寸評:


 まだドラフト制度がなかった時代、職業野球の新人獲得は自由競争であった。学生野球の大物スラッガー・大木実は恩人を自称する元大陸浪人のブローカー・伊藤雄之助に自分の進路を任せているらしい。在京チームのスカウトマン・佐田啓二は大木獲得のため、伊藤に実弾をつぎ込んでモノにしようとするが、伊藤は外見通りのなかなかのクセ者で、他チームのスカウトマンたち・多々良純、山茶花究らとも裏で交渉しているらしい。

 伊藤は田舎に妻子がありながら、東京で愛人とその娘・岸恵子と暮らしており、一応、勤め人であったが社長・東野英治郎は伊藤をまるで信用していなかった。いよいよ大木の卒業が近づいてくると、伊藤は会社をやめて「大木は俺の宝くじ」と吹聴しながら各球団から賄賂を取り続けた。佐田は、一度は伊藤に愛想をつかしそうになるが、彼が胆石の痛みに七転八倒する姿を目撃してしまい、同情心から本当に信用するようになる。

 伊藤の娘の岸恵子は大木と恋仲だったが、「あなたがはっきりしないからみんな苦労するのよ」と彼に偉そうに意見をしてしまったため大木との仲は一気に冷めてしまう。伊藤を憎んでいた岸は日参してくる佐田に「伊藤は仮病を使ってあなたの同情を引こうとしているのよ」とささやく。しかし伊藤は本当に胆石だった。大木を利用し契約金をつり上げようとしていたのは事実だったが、彼は心底、大木を信頼していた。

 佐田は大木の親族を説得するために四国へ飛ぶ。大木の父母や兄弟はふってわいたような金儲け話しに浮かれ始める。乱暴者の長兄・三井弘次は契約金を独り占めしたくなり、伊藤を遠ざけようとする。焦った伊藤はいよいよ悪化してきた胆石の治療をせず、佐田のチームへ入るように大木に懇願する。

 だが大木は態度を保留した。思惑のはずれた三井は次兄・織本順吉と言い争いになり傷害事件を起こして逮捕される。契約金が一気に跳ね上がった頃、大木は関西のチームと契約する。土壇場で裏切られた伊藤は寂しく死んだ。佐田は見舞にも来なかった大木の不誠実さを糾弾したが、大木は「仕方なかった」と言うのみであった。

 数ヵ月後、開幕戦の打席には晴れやかで不敵な微笑みを浮かべた大型新人、大木実が観客の大歓声に迎えられていた。

 伊藤も大木も三井も佐田も、拝金主義者のエゴイストでとてつもない俗物の嫌らしい人物として描かれている。しかし、私がこの映画で誰よりも嫌いなのは岸恵子なのである。

 プロである男たちには己の卑しさや醜さへの覚悟がちゃんとあるのに、この女(なんという傲慢な響き!)ときたら被害者意識だけがやたらと強くて感謝や反省というものがまったく無い。頭の固い美人に共通したアプリケーションであるが、無愛想でいちいちカンにさわるその言動、少しくらいカワイイからって図に乗るな!である。伊藤の金で養われている現状を受け入れながらブーブーと文句ばかりを言い、生きるために伊藤に体を売っている母を軽蔑し続ける。自分には体を売る度胸すら無いのに、やたらと他人に説教したがるモラリスト(道徳主義者)。

 この監督、男を描くのは上手いが女には甘い、と見た。

 当時34歳だった大木実が詰め襟の学制服で出てきたのには腰を抜かしそうになるが、驚異の万年青年・池部良やとほうもなく老けた大学生を従えていた加山雄三に慣れていれば違和感は少ない(はず、か?)。キャストを見て、てっきり社会人野球の話だと思っていたからねえ。しかしあの若きヴェテラン・大木実だったからこそ、ラストのふてぶてしい笑顔が決まりすぎるほどだったと言えるかも。

1998年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16