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実録 私設銀座警察


■公開:1973年

■制作:東映

■監督:佐藤純弥

■助監:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:渡瀬恒彦

■寸評:


 ヒロポンはこわい。

 太平洋戦争の敗戦直後、復員兵・渡瀬恒彦はパンパンになった女房が黒人兵とのあいだに子供までもうけたことに激怒し、母子ともども惨殺する。街をうろついていた渡瀬はささいなことから別の黒人兵といさかいを起こし、相手に怪我をさせて逃亡。同じく復員してきて中国人やくざに痛めつけられた安藤昇、米兵に女を横取りされた梅宮辰夫、戦前からのやくざ・葉山良二らに匿われた渡瀬は自暴自棄になった挙句ヒロポン中毒になってしまう。

 日本のために戦った安藤たちは戦争に負けたために売春婦からも馬鹿にされた。学歴も資金もなにもない彼等は一念発起し「私設銀座警察」を名乗ってのし上がるべく同盟を組む。

 ヒロポン欲しさから銀座を支配していた若手やくざ・待田京介を射殺した渡瀬は葉山の舎弟になる。ヤミ物資の横ながしを始めた安藤は、役人・田口計と三国人の実業家・内田朝雄の不正をネタに莫大な上納金をせしめる。安藤の羽振りのよさが気に食わない葉山は売春婦の斡旋でもうけていた梅宮ととともに内田と田口をリンチにかけ、さらに金を引き出そうとする。暴力に怯えた田口が自首してしまい、ヤケになった葉山が内田を軟禁していたが、ヒロポンのアンプルをうっかり床に落として割った内田をカッとなった渡瀬が殴り殺してしまう。

 証拠隠滅のために内田の死体を豚小屋に捨てた葉山はオトシマエのために渡瀬に安藤襲撃を命じた。渡瀬はあと一歩の所で禁断症状が出てしまい失敗する。安藤の子分たちにメッタ刺しにされた上に生き埋めにされた渡瀬だったが、土砂降りの雨のなかまるで「バタリアン」のように地中から這い出した。

 安藤に片腕を折られて腹の虫がおさまらない葉山は渡瀬を助け、再度、安藤を襲撃させる。子分・小林稔侍の結婚式の最中、安藤は渡瀬に眉間を撃ち抜かれて死ぬ。銀座を完全に支配した葉山は梅宮と組んで暴力とヤミ商売で勢力を拡大するが、徐々に治安の良くなってきた東京では暴力取締り強化が叫ばれ、内田殺害の容疑者として三人は次第に追い詰められていく。

 「どうせ捕まるなら女抱いて酒飲んでぱーっと騒ごうぜっ!」といういつも前向きな梅宮の提案により、葉山と梅宮は芸者をあげて札をばらまき大宴会を繰り広げる。その最中、女の裸に興奮したのか突如発作を起こした渡瀬がヒロポンの打ちすぎで大量吐血の挙句に今度こそ本当に死んでしまう。葉山と梅宮たちはほどなくして全員、逮捕された。

 いやあ何遍見てもとんでもない映画というのはあるものだ。冒頭、赤ん坊をいきなりドブ川に叩き込み女房の頭をブロックでカチ割る渡瀬恒彦、理不尽な弾道で手のひらと額をクリーンヒットされる安藤昇(一部、人形、しかもブサイク)、切り刻まれて豚のエサになる内田朝雄、数え上げたらきりないぞ。

 まず注目すべきはこの映画では時代考証というものがほとんど無視されていることだ。敗戦直後の銀座の混乱というのは作り手と見る側の約束事にすぎない。だって銀座なんか全然出てこないよ、この映画。ほとんどの乱闘シーンに登場するのはあざやかなコンクリートでがちがちに固められた渋谷川という近代的かつ巨大なドブ川だし、隣接するビルにはついこないだとっかえたばかり?って感じのエアコンの室外機がバッチリ映っている。

 食料事情が悪かったはずなのにブクブクに太っている梅宮辰夫(は、ともかく)をはじめ、彼等がヤケ酒食らって歌うのは村田英雄先生の「王将」。いつだ?いつなんだこの時代は?という観客の疑問に応えるべく時々年号が表示されるのだが、全然納得いかないのだった。

 この頃から元電通マンとしての社会性を完全に捨てた渡瀬恒彦のヒロポン中毒患者がとにかく凄い。些細なことでカッとなるのは実は生地なのだが、それがクスリで一層エスカレートしていくところがリアルである。これはヒロポン中毒の恐ろしさを広く世間一般に訴える一種の啓蒙映画と呼んでもよいのではないか。

 全編、大流血とオッパイとヒロポン中毒患者しか出てこないような本作品では、やくざだが一応実業家としてのし上がる安藤昇のくだりだけが唯一まともなストーリー。従業員である小林稔侍の誕生日に真新しい靴をプレゼントしたり、結婚式の仲人をしてやったり、了見の狭い葉山に愛想をつかした子分を匿ってやったり。男くささも渋さもほぼフル装備の安藤昇、やたらとカッコいいんである。実人生において人の上に立ったことのある人間はやはり一味違いますねえ、やくざだけど。

 エロ、グロ、バイオレンス、人種差別(スレスレ)、、、などなど映画でやっちゃいけないことをとりあえず一通りやっちゃいました的な本作品。CSのコンテンツ日照りが危惧される今日この頃だが、この映画がテレビで放送される時はいつ来るのだろう?いや、別に来なくてもいいんだが。とりあえず、自分の子供にゃ絶対に見せたくない映画の一つであることだけは確か。

1998年06月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16