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妻の心


■公開:1956年

■制作:東宝

■監督:成瀬巳喜男

■助監:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:三船敏郎(筆者の趣味)

■寸評:あきらめろ小林、相手は三船だ!


 まだ戦後間もない地方の町でドラマは展開する。小さな商店の跡取り息子である長男・千秋実は東京へ出てしまっていたので、店は養子・小林桂樹が継いでいた。ある日、千秋は妻・中北千枝子と娘を連れて突然帰郷する。帰郷の理由をはっきり説明しない千秋夫婦であったが小林の妻・高峰秀子は気が気ではなかった。

 小林と高峰は自宅の庭で喫茶店を経営するために着々と準備をしていたのだ。高峰はコックの見習いをするために食堂のおじさん・加東大介とおばさん・沢村貞子に頼んで時々、店を手伝っていた。そこへ高峰の同級生・杉葉子の兄・三船敏郎がやって来る。三船は結婚する前から高峰を知っていて実はお互い好きあっていたのだった。

 喫茶店の開店資金の目処が付いた頃、まるで見計らっていたように千秋が実母・三好栄子に、勤めていた会社が倒産したので地元で商売をしたいから金を貸してくれと頼み込む。実子に甘い三好の無言の圧力(顔、ではない)により高峰は、小林が良いというなら金を貸してもよいという。小林が千秋に金を渡して間もなく千秋は姿を消す。しばらく音信不通だった千秋から、東京で就職できそうなので中北を上京させて欲しい、と手紙が来る。小林から借りた金は生活費用に回されていた。挙句に千秋は、娘は足手まといだからしばらくの間、高峰に面倒を見て欲しいとまで書いてきた。

 孫かわいさの三好は喜んだが高峰は断然、面白くない。高峰の外出が頻繁になり、小林との仲もギクシャクしだした頃、かねて小林と付き合いのあった芸者が旦那に捨てられて自殺してしまう。新聞沙汰になりそうだったが、置屋のおやじ・田中春男の計らいもあって事なきを得る。高峰はまだ独身の三船とちょくちょく会うようになっていた。しかし二人とも踏み切れず、清く別れてしまう。高峰は小林の元へ戻り、また二人で力をあわせて働くことを誓うのであった。

 三船が雨宿りしていて高峰と二人きりになるシーンが良い。口ベタな三船がますます無口になり、子供のようにモジモジする。イイなあ〜こういう三船って。高峰が小林をポイして(しかかって)三船によろめく気持ちはむべなるかな。期待に胸の高なる高峰と三船、二人とも黙ったままに時が流れる。私が見た成瀬監督の映画に出てくる男どもの中では、三船は毛色が全然違う。どこに置いといても、三船はとても奇麗な役者であることを再確認した。

 万事凡庸な小林桂樹は女房を三船に取られそうになるピエロな役どころだが、千秋実と兄弟だというのが笑えた。だってすごくリアリティあるもの、他にもあるのかな?この組み合わせは。

 この映画で一番強烈だったのは三好栄子ではなく(しつこい?)、長男の嫁を演じた中北千枝子。慎ましやかに見えて、田舎育ちの高峰とは違って「言うべきこと、したいこと」をちゃんとやってしまう都会育ちのデリカシーの無さが見ているほうの神経を逆なでして、そこに絶妙なリアリティを醸し出す。

 庶民という「並の人」たちは凡庸なのであり、とりわけ何かに優れているわけではないのだが、そういう人達の日常もここまでよく観察すると実にドラマチックであるなあと、この監督の映画を観るといつも思う。特に、女性の神経を逆なでする日常些末な出来事の描写において。

1998年06月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16