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幽霊五十三次


■公開:1960年

■制作:ニュー東映

■監督:内出好吉

■助監:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:高田浩吉

■寸評:


 落語をそのまま映画にしたらたぶんこんな感じになるんじゃないか?

 新内流しの浩助・高田浩吉と浩太・里見浩太郎のコンビは上野不忍池で旅芝居の一座の人気太夫・扇町景子の死体を発見する。その晩、幽霊になって浩助の前に現われた彼女は、悪い家老・阿部九州男が殿様のご寵愛を受けられず嫉妬した側室・松風利栄子の命令で気の弱いお姫様・花園ひろみをショック死させるために自分に幽霊の扮装をして脅かすように命令したが、断わったので斬り殺されてしまったと言う。義理堅い太夫は幽霊になってまで家老をやっつけて、お姫様を守ってほしいと二人に頼みに来たのであった。

 「言うとおりにしないと化けて出る」と脅かされた二人は京都へ向かうお姫様の行列、その後をつける家老の一味を追って太夫の幽霊とともに東海道を旅することになった。昼間は女性だけの旅芸人一座とか越中富山の薬売りの一団などが、高田と里見とともにお姫様の近所をうろちょろしているので悪家老一味は手が出せず、夜は太夫が幽霊の本領を発揮してお姫様の寝床を守る、という具合。

 家老は太夫の幽霊と対決するためにインチキ霊媒師・園佳也子に頼んで「太夫の幽霊に勝つような強い幽霊を雇いたい」と申し出る。金で幽霊を雇うというまるで「牡丹灯篭」の逆を行くトンデモナイ話。雇われた幽霊、法海坊・立原博は太夫の幽霊に「死人がどうやって金を使うのよ!」と説教されてスゴスゴ退散してしまうというオソマツさ。

 ついに家老一味と対決することになった高田と里見。幽霊太夫の活躍で家老の刃に側室が倒れ、件の殿様・川上のぼるが現われて一件落着かと思ったら、これがとんでもないバカ殿。花園は「あなたと一緒になるなんて真っ平です」と言いはなって殿様の面目丸潰れ。それを見て喜んだ側室の幽霊が殿様を追いかけ回して一同、大笑いとなる。

 一緒に旅をするうちに高田が好きになった幽霊太夫だったが満願かなったので成仏しなければならない。そこで彼女はお姫様に乗り移って生まれ変わることにした。ずーっと籠に乗っていたはずのお姫様は「なんだか私、あなたの傍をずっと歩いていたような気がする」と言う。高田は花園と、里見は多くの女性ファンを従えて東海道の旅を続けるのだった。

 幽霊が恋しい人と一緒になるために生まれ変わったら過去の記憶が無くなっているって言うこのハートウォーミングなオチ、まるで「天国から来たチャンピオン」みたいだと思わないか?こんなところにあの名作のルーツ(うそ、たぶん)があったとは驚きだ。

 落語の「野ざらし」をアレンジした人気太夫の幽霊もシャレてる。オネダリするときは美女のまんまだが、高田と里見がサボったりすると突然、髪を振り乱して恐ろしい形相になって尻をたたく。なにせ役者だった生前の彼女の十八番は「四谷怪談」なのだ。かと思うと「足が消えているので怖い」と高田浩吉に言われると「じゃあ座りましょうか?」なんてニコニコしているという、まことに茶目っ気のある幽霊だ。

 そしてクライマックスは惚れ薬を飲まされた家老の家来・小田部通麿が発情し同僚の汐路章にヒシッ!と抱きつくおぞましいシーン。

 コメディリリーフも充実。幽霊宿屋の女中・桜京美、幽霊番頭・茶川一郎、江戸からくっついてくる岡っぴき・星十郎。本職のコメディアンではないが悪家老の阿部九州男の、仁王様のような派手で分かりやすいが多少オーバー気味の悪党芝居も楽しい。

 「まずはお線香(お茶)でも差し上げましょう」と幽霊をもてなしたり、「お願いします」と幽霊に手をとられて「冷てーなー」と半ベソをかく高田浩吉の年期の入った名人芸は、まるで古典落語を見ているような気分である。見ているほうはオチが分かっていても、ついつい笑ってしまうのだ。

1998年06月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16