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歌う野球小僧


■公開:1951年

■制作:大映

■監督:渡辺邦男

■助監:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:灰田勝彦

■寸評:


 投打のエース・灰田勝彦がいる草野球のチーム名は「小僧チーム」(すし屋ではない)という。灰田はクリーニング屋の小僧をしていてメンバーもそれぞに生業を持っている純粋なアマチュア野球チームだ。チームには写真屋・潮万太郎、骨董屋・岸井明、ほかには中条静夫らがいて町内のライバル、三六チーム(エース・高品格)との優勝争いにしのぎを削っていた。

 灰田はオリオンズの主砲・別当薫(本物)の大ファンで、米国から帰国した別当のユニフォームを無料で洗濯してあげる約束をしていた。駅前マーケットのゴロツキのリーダー・上原謙は「暴力反対」を叫ぶクリーニング屋のオヤジ・杉狂児が目の上のタンコブだったので、気を効かせたつもりの上原の手下が灰田から別当のユニフォームを盗む。

 職業野球と見まごうばかりの三六チームのオーナーは因業な地主で、彼の愛人が「ユニフォームを作ってあげるから三六チームに入れ」と灰田を脅迫する。やくざから足を洗っていた小僧チームのメンバーの一人が、昔のつきあいを頼んで上原にユニフォームの捜索を依頼するがすげなく断われる。一緒に行った灰田が「ユニフォームをネタに脅迫するなんてフェアじゃない」と上原にタンカを切る。

 灰田の堂々とした物言いに惚れた上原がユニフォームを返してやると、上原の子分たちは地主に金で誘われて上原を裏切り乱闘になる。いよいよ決勝戦の日、ピンチになった三六チームは審判に見えないように暴力をふるったり汚い事をしたので小僧チームに負傷者が続出しメンバーが足りなくなってしまう。そこへ上原がかけつけ決勝打を放ち、見事、小僧チームは優勝するのであった。

 「歌う野球小僧」っていうタイトルなんだからとにかく灰田は劇中「野球小僧」を歌いまくる。地主にいびられても全然平気な歌謡学校の校長・笠置シズ子がこれに加わってにぎやかなことこの上ない。灰田はいかにも野球が好きそうで、なかなか上手い。プロに憧れた灰田の目を覚ますために恋人が別当に頼んで練習に参加させてもらい、レベルの差を痛感させて諦めさせるシーンの灰田は本当に楽しげ。それじゃマズイんだけど、でも体の動きがキビキビしているので丸わかり。

 当時の人気プロ野球選手がキラ星のごとく登場、と言いたいけど古すぎてお手上げだ。別当、土井垣、若林、このへんは分かる(筆者は阪神ファン)んだけど、他は全然分からない。

 今のようにタレント化したプロスポーツ選手や、いい芝居ができないくせに妙にハリウッド俳優のオーバーな顔芝居を真似したがるタレントを見慣れていると、この映画に登場するただ野球しかできない、ただ歌うだけの歌手がいかに新鮮であることか。

 プロの練習でこてんぱんにされた灰田に別当が「プロってそんなに甘くないんだよ」と棒読み台詞で語るとき、そうだ!そうなんだよ!と、見ている私は思わず頷いてしまった。

 映画俳優でも歌手でもその道のプロになるのはとても難しい。中には金でその「道」を買ってしまったり、メディアによって巧みに作り上げられた人も(たくさん)いるが、誤魔化しが効かないのがプロスポーツの世界である。この映画が清々しいのはそういうところにきちんと敬意を払っていることだ。

 上原謙が珍しくワル役で一生懸命スゴむ。二枚目が怖い顔するとなかなか似合うのだが、いかにもお約束のきっかけ作りのために灰田や笠置に「わめくな、歌え!」と連発するのはご愛嬌っていうか、素直な人。

1998年06月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16