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ブルーバ


■公開:1955年

■制作:大映

■監督:鈴木重吉

■助監:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:浜口喜博

■寸評:


 ルー・フェリグノはハンディキャッパーだったが、アーノルド・シュワルツェネガー、シルベスタ・スタローン、ジャン・クロード・ヴァンダム、いずれも非英語圏出身である、そして皆、マッチョスタアとしてデビューした。なぜか?台詞喋らないでいいから、である。

 アフリカのジャングルで消息不明になった同僚博士を捜索するために現地に赴いた学者・見明凡太郎とその娘・八潮悠子、昆虫学者・丸山修は現地でサファリパークを経営している日系二世にガイドを紹介して貰うことにした。彼は日本人であったが現地の多数の土人の言葉に通じていた。途中、人喰い人種まがいの凶悪な土人の襲撃を受けたりしたが、見明があまりにも熱心に捜査続行を主張するのを怪しんだガイドが彼を問い詰めると意外な事実が判明する。

 行方不明になった博士の夫人からの手紙によると現地には「ダイヤモンドの山」があるらしい。博士と夫人はその山のすぐ手前まで行ったところでライオンに襲われたのだった。ガイドは見明に、協力するから分け前をよこせと迫る。そうとは知らない八潮は別の手紙を読んで婦人が現地で男児を出産したらしいことを知る。

 博士たちが消息を断った現場からは子供の遺体は発見されなかった。塩を目当てに見明の一行に接近してきた土人たちは、博士の子供はまだ赤ん坊のうちにライオンに連れ去られそのまま成長して今でもどこかに住んでいる、と言う。ある日、キャンプにライオンがやってきてパニックが起こる。森に迷い込んでゴリラに誘拐された八潮を救ったのはたくましい野生児・浜口喜博であった。

 浜口は人語をほとんど理解しなかったが、猿と人間の区別くらいはつくらしい。浜口は八潮を木の上の小屋に招いて食べ物でもてなした。この浜口こそが博士の遺児だと確信した八潮は彼に日本語を教える。娘を探しながら探検を続けていた見明は偶然、浜口の小屋で八潮を発見したが、八潮を取られたと勘違いして怒った浜口をガイドが誤って撃ってしまう。

 一行はいよいよダイヤモンドの山に近づいて来たが、そのあたりには特に狂暴な人喰い人種が住んでいた。彼等の部落に捕えられた八潮らを救うため、浜口は乳兄弟であるライオンを呼び集めて部落を襲撃し見明らを救出した。浜口を日本へ連れて帰るつもりの八潮だったが、彼は動物たちとの絆を断ち難くそのままアフリカに残ることを選択した。八潮は迷わず浜口の後を追い、二人は末永く一緒に暮らした。

 「ターザン」映画にあまり詳しくないんだけど、「煉瓦工出身」って感じの初代のエルモ・リンカーンに比べてジョニー・ワイズミューラーは全然マッチョじゃない、体格は良いけどスラっとしてる、やっぱ水泳選手だもんね、しかも昔の。最近の「腕で泳ぐ」タイプの近代的なスイマーを見慣れていると浜口選手って結構、フツーの体格である。ずーっと後輩のロン・エリーあたりはもう完璧なボディビルダー・タイプであるが。

 金髪に白い肌、いかにも善良なアメリカ市民風のワイズミューラー同様、本作品の浜口選手も、いかにも日本在来種らしい田舎の青年団系のマスクに好感がもてる。ちょっと間寛平風味の人のよさを感じさせるところもグーだ。主役にオリンピック・メダリスト(銀)の水泳選手を持ってくるっていう、大映のコテコテ感覚も素敵。どうせパクるんならとことんこだわって頂きたいものだから、こういうの好きですよ、私は。

 アフリカの風景がほとんどライブラリーもの(焼き直しなので画質がてきめんに落ちる)なのは仕方のないところだろう。象はインド産だがライオンは本物だ。当然サーカスあたりからの借り物であるが、演技はなかなか達者である。本家の「ターザン」だってしょっちゅうインド象に「付け耳」をしてアフリカ象に化けさせたりしていたのだから、そのまま出しちゃう本作品のほうが潔いってもんよ。

 タイトルの「ブルーバ」というのは主人公の野生児が、嬉しいとき、悲しいとき、動物を集合させるときにいちいち雄叫びをあげるのだが、そん時に「ぶるーばー!」と叫ぶのでそこから来ている。むやみやたらと叫ぶので映画の後半では八潮も浜口のことを、ちゃんと親がつけた名前があるにもかかわらず、「ブルーバ」と呼ぶようになった。

 本家のターザンは「ミー、ターザン、ユー、ジェーン」なんてたどたどしく喋りながら慣れた手つきでジェーンとキスしたりしてたけど、日本男児はそんなハシタナイことしません。せいぜい肩に手を回す程度で、しかも浜口選手がちょっと照れているので微笑ましいことこの上ない。

 ようするに、日本人が「和製ターザン」に求めている理想像は、気は優しくて力持ちの「足柄山の金太郎」がルーツなんだということがよく分かる。

 ワイズミューラーがつけていて妙にセクシーだったフンドシ(っつうか競泳用のモノキニパンツ)は日本人の専売特許なのだが本作品のブルーバは股がみの深いパンツ姿。その代りと言ってはなんだが、ジェーン役の八潮悠子はなかなかイケるセパレート水着姿を披露。「ターザン」映画のもうひとつの魅力もちゃんと継承しているのである、エライぞ!

 本家本元に敬意を表し、堂々、アメリカロケーションを慣行。元祖ターザン映画の制作会社であるゴールドウイン社に常設されたスタジオのジャングルセットを借り切るなどホンモノへのこだわりがヒシヒシと感じられるパッチもん映画。

1998年06月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16