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お役者変化捕物帖 血どくろ屋敷


■公開:1961年

■制作:東映

■監督:河野寿一

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:高田浩吉

■寸評:


 こういう映画をアタマからっぽにして楽しめるようになったら真にリラックスしている、と言えるのではないか?つまり癒し系って奴だな(なんのことだか)。

 金座(金貨の発行所、後藤家)の主人・北竜二の後妻・千原しのぶは占いが得意で、主人の隠し子は運がないから死んだと思えと予言する。こんな非情な女だから召使たちの評判も最悪で「勘定奉行・坂東好太郎の娘だからってナマイキだわ!」などと公然と陰口を叩かれている。だがこの占いには裏があった。奉行が金座の利益を私物化するために娘を無理やりに嫁がせて、自分の言いなりになる養子をとらせようとしていたのだ。

 江戸で威勢のよい若衆・星十郎を従えて「よろずもめごと相談所」を開いている浪人・高田浩吉の盟友は姿形がそっくりな花形歌舞伎の太夫・高田浩吉(二役)。ある日、高田の家にやくざ風の若い男・品川隆二が逃げ込んでくる。品川の話によると、妹と久しぶりに会って家に帰って寝ていたら理由もなくいきなり浪人に踏み込まれて、逃げる途中で妹とはぐれたというのだ。品川の妹は金座の家の女中だったので、隠し子の存在を知っている女中ともども奉行の手下に命を狙われたのだった。

 焦った奉行の腹心・須賀不二夫が隠し子を殺害し金座の主人に養子縁組みをゴリ押しする。後妻が太夫の大ファンだと知った高田は彼になりすまして品川の妹が軟禁されている奉行の屋敷に乗り込む。そこへ高田の仲間の与力・若山富三郎が配下を連れて駆けつけ、悪者共は一網打尽となった。

 高田の芝居はとてもクサイ、だがダサいわけではない、ここんところはとても重要なポイントである。高田の芝居は思いっきり前時代的台詞の洪水であるが、清々しいまでの滑舌の良さ(ちょっと関西なまりだが)、チャンバラの巧みさ、舞踊や三味線などのインチキでない芸事の実力、これら確かな技術力に裏うちされたスタア芝居が最大の魅力である。

 また、チャンバラのとき刀の柄にベッっとツバをかけ目釘を湿らせるタイミングの良さは、さあこれからが見せ場です!と客に知らせる予定調和的な観客サービスの一つ。こういう戦前の時代劇によく見られたお作法をちゃんと引き継いでいるってのも嬉しいところだ。あと、着ながしからのぞくフンドシも、ね。

 東映時代劇を支えた名コメディアン、星十郎とのかけあいも良い。ちょっとしたアドリブにも高田はよく応じる。舞台のキャリアが長い役者はこういうところが実に巧い。顔出し程度の若山富三郎の「重さ」や機関銃の様に(すでにこの頃から)喋る品川隆二の「濃さ」に比べると、実にあっさり風味であるがちゃんとスター然としているのもイイ。

 高田浩吉は後年、タモリがパーソナリティをしていたラジオの深夜放送で「思想のない歌のコーナー(と、いうのがあった)」に「白鷺三味線」(♪白鳥は小首かしげて水の上〜という歌詞)が取り上げられた時、ゲスト出演したことがある。この時の温厚な語り口はすでに(伝説の)大ベテランであったにもかかわらず、驕らず、高ぶらず、出しゃばらず、その実直な人柄がよく出ていてなんと「映画で見たまんま」の好人物であろうかと感激したものだ。

 作り込まれた笑いと人情とチャンバラが絶妙にブレンドされた高田浩吉の娯楽時代劇シリーズはもっと高く評価されるべきだと真剣に思うぞ。

1998年06月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16