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落陽


■公開:1992年
■制作:にっかつ
■監督:伴野朗
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:加東雅也
■寸評:かくて日(活)は沈んだ、、、


 今にして思えばなんて縁起の悪いタイトルだったのだろうか。

 満州事変勃発からシナ事変、太平洋戦争を経て日本が敗戦するまでの中国大陸を舞台に、一匹狼の青年・加藤雅也が暗躍する大河ロマン。本作品は(旧)日活創立80周年記念映画であった。

 関東軍の下士官だった加藤雅也は酒場で下品な日本人実業家に言い寄られていた歌姫・ダイアンレインを助け、関東軍を追放される。大陸で事業をしていた父が騙されてアヘン栽培に手を出した末に自殺したという辛い過去を持つ加藤は、「五族共和・王道楽土」を満州に立国するという関東軍の中佐・嵐圭史の理想に共鳴し、関東軍の大陸侵攻を金銭面で支えるべく、中国人の財閥・中村梅之助や満州浪人・にしきのあきらと手を組み、大々的にアヘンの密売を行い莫大な利益を上げる。

 最初は協力的だったダイアンも、アヘンの取り引きのいざこざで仲間の女馬族・汀夏子が殺された事に失望し、加藤の側を離れる。太平洋戦争の末期、ソ連の満州侵攻にともない、命からがら内地へ帰ろうとする満州鉄道の社員・中村梅雀を、かつて命を助けたことがある中国共産党の闘士の計らいで救出した加藤は、たった一人で中国大陸の彼方に消えていく。

 加藤や中国マフィア・ユンピョウ、大英帝国のスパイ・ドナルドサザーランドらが活躍する裏社会のスリリングな描写と、満州鉄道の一社員、中村梅雀に代表される居留民の運命が、禍福はあざなえる縄のごとし、とばかりに展開し壮大なスケールのドラマになるはずだったに違いない。

 「あてとふんどしは手前からはずれる」の諺のとおり、この映画は制作者の熱意とはかけはなれた、かなりオソマツなデキであったと思われる。

 雄大な中国大陸の風景。これって中国電子台かなんかの観光フィルムじゃないの?という印象が拭えない。それでも空撮した万里の長城とか石窟とかは、まだ素材がゴージャスだから見られるんだけど、ドラマ部分のカメラワークは徹底的にボサーっとしていて、躍動感も重量感もまるで感じられないのである。

 ダイアンレインは歌手で、かつ馬族の首領もしているというムチャな設定で、さっそうと大陸の大平原を蒙古馬で疾走するはずだった。が、ダイアンが騎乗している馬はどう見ても米国産のクォーターホースかハーフリンガー種。ロケ場所は御殿場か阿蘇山の麓か、とにかく足元は一面の火山灰。スケール感まるでナシ。ダイアンレインの黒髪ヅラも、なんか頭に「もずく」のっけたみたいでかなりカッコ悪い。

 他国籍のオールスター映画なので、言葉の問題はどのようになっていたか。ダイアンレインが登場する場面では、彼女が中国人という設定にもかかわらず、画面に登場する人物のほぼ全員が英語。ユンピョウが出てくるところは中国語。サザーランドが出てくるところは英語。中国人役の中村梅之助と、その息子・尾藤イサオの会話は日本語。なんというリーズナブルっつうかいいかげんな設定であろうか。

 梅雀が出てるのに、梅之助の息子が尾藤イサオと言うのもなんかモッタイナイ感じ(余計なお世話だが)だし。共産党のスパイが一夜にして廃人同様のアヘン中毒になっちゃうというご都合主義的加速演出が作品の隅々まで浸透していてとにかくスッカスカ。めくるめくような場面展開の唐突さは、まるで東京12チャンネルで昼間放送しているカットしまくり映画なみ。

 これだけのスターを集め、ゲストに島田正吾(「酔拳」の師匠みたいな扮装、しゃべるまで判らない)、金田龍之介(すぐ死ぬ)、立川談志(暗くて顔が判らない)、桐島かれん(唐突)、宍戸錠(何しゃべってんだか聞き取れない)、川地民夫(気が付かない)、岡崎二郎(川地と同様)らを呼んでいるわりには、どのキャラクターも驚くほど印象に残らない。サザーランド(尾藤を拷問するだけ)なんか、何しに出て来たんだか全然意味不明。

 様々なドラマが展開する割には、お互いのドラマに関連性が全く感じられず、150分間、大人数が出たり入ったりしているだけ、という印象が残ってしまったのは寂しい限りだ。

 荘厳なモーリスジャールの音楽も気が遠くなるくらい空々しくて、ジャジャーンと聞こえてくる度に、気恥ずかしくなるほど。エラフィッツジラルドの「歌詞付き」エンディングテーマも同様。劇伴にシャシンが負けた映画ってのも珍しいといえるかも。

 豪華なスターと破格の予算が仇となり、ついには(旧)日活にトドメを刺した業の深い超大作映画。

1998年02月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16