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鶴−つる−


■公開:1988年
■制作:東宝
■監督:市川崑
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:吉永小百合
■寸評:鶴に芝居をさせるのは難しい、と言うか無理。


 出演映画百本を記念して小百合ちゃん自身が多くの企画から選んだのが本作品である。

 貧乏な小作人の青年・野田秀樹は、体の不自由な婆さま・樹木希林と二人暮し。ある吹雪の晩に突然、訪ねてきた美しい娘・吉永小百合に「お前様の嫁になりたい」と言われた野田はびっくり仰天する。そりゃそうだわな、等と思っていると、この娘は大変な働き者で、一面に氷のはった湖の魚を獲って来たりする。「そんなものは鶴でもなければ獲ってこれねえのに」と言われた小百合ちゃんは、妙におどおどするのだった。

 壊れた機織り機を見つけた吉永は野田に修理をせがむ。野田が納屋に織り機を置くと、小百合ちゃんは「決して覗かないでくれ」ときつく頼んで納屋にこもり一昼夜かけて素晴しい布を完成させる。野田は早速ごうつく張りの長者・菅原文太のところへ売りに行き大金を得る。金を見て喜ぶ野田と樹木は機織りで異常にやつれた小百合ちゃんの様子に気がつかなかった。

 長者に唆された野田はちょっぴり金の誘惑にも負けて「一度きりしか布を織らない」と言う小百合ちゃんを拝み倒す。小百合ちゃんはふたたび納屋にこもった。知り合いの百姓・川谷拓三の女房・安田道代から「女房にせつない思いをさせるのは罪だ」と言われた野田は、好奇心に負けてとうとう納屋を覗いてしまう。

 野田の目に映ったのは小百合ちゃんではなく、自分の羽を引き抜いてはそれを織り糸にしている、一羽の鶴だったのだ。

 野田は腰を抜かして悲鳴を上げた。納屋から出てきた顔面蒼白の小百合ちゃんは「正体を知られてはもう一緒に暮らせない」と涙を流しながら、鶴の姿に変身して飛んでいってしまった。鶴は猟師・常田富士男に矢で射られたところを野田に助けられたので、その恩返しに来たのであった。せっかく本当に愛し合えると思った矢先に裏切られた、と恨み事を言われ、顔色を失った野田が鶴の後を追う。そこへかぶる、石坂浩二のナレーションが秀逸であった。「鶴は山へ飛んでいってしまいました。人間が納屋を覗いたからです。」と血も涙もない解説が、失意の野田に追い打ちをかけるのだった。

 鶴なんだよ、鶴、鶴。赤い頭のタンチョウヅルが「パッタン、パッタン」織ってやがんの!その光景を野田と一緒に見た観客の狼狽は筆舌に尽くし難いものであった。「笑うシーンじゃないよなあ」と誰もが思った。が、鶴の顔がアップになった瞬間、観客の緊張の糸はぷっつりと切れた。場内は真っ二つに分かれたのだ、思わず「笑っちゃった」奴と「引いちゃった」奴に。

 四十を過ぎた小百合ちゃんの「雪ん子ファッション」にはさすがに胆を冷やしたが、年齢に似合わぬ可憐さはさすがと言うべきか。それにしても、やはりあのできそこないの「鶴」は頭痛いっすよ。手塚治虫原作の「火の鳥」で「鶴に芝居をさせる」ことを断念したはずではなかったのか?市川監督は。

1998年02月12日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16