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多羅尾伴内


■公開:1978年
■制作:東映
■監督:鈴木則文
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:小林旭
■寸評:


 今はなき、東京の後楽園球場で人気プロ野球選手が衆人環視の中、殺される。私立医大の学長・池部良の宛に第二第三の殺人予告を記した脅迫状が届く。池部の不肖の息子・江木俊夫は友達のアイドル歌手と、件の野球選手と三人で北海道をドライブ中、飛び出した子供を庇った父親を息子もろともはねてしまった。

 しかもこの三人は「顔を見られた」ということで、口封じのために虫の息だった父子を何遍も車で轢きまくって惨殺したのだった。父親の池部は金でマスコミの口を封じたが、殺された親父の女房・夏樹陽子が身分を隠して池部の秘書になり復讐の機会を狙っていたことは知らなかった。

 池部も戦後のどさくさに紛れて、やくざ(しかも池部良の戦友という設定)・成田三樹夫と手を組み、ヒロポンの横流しで成り上がった身の上で叩けばホコリの出る体である。理事長・天津敏と相談した結果、池部は名探偵、藤村大造・小林旭にひそかに調査を依頼した。しかし藤村は留守で、代りに依頼を受けたのは風采の上がらない探偵、多羅尾伴内・小林旭であった。

 江木の恋人であり共犯者であるアイドル歌手が、公演の最中、仕掛けられていたピアノ線で中吊りにされて胴体を真っ二つに切断されるという惨劇が起こる。やっと夏樹の正体を突き止めた旭の目前で狐鬼の面を被った怪人が夏樹を斧で殺害。成田も天津も殺される。事件の真犯人は自分の過去を消すために夏樹を利用した池部良であった。旭に真相を暴露された池部は、おとなしく逮捕されるフリをして軍用拳銃で自殺した。

 小林旭はデブ(になったのは最近だけど、この頃すでに、かなり太め)なのにアクションが上手い。身のこなしが驚くほど軽いのである。トランポリンを使った飛んだり跳ねたりはスタントだが、丸太のような胴体にパッツンパッツンの革のジャンパーとパンツでの乱闘シーンでは、狭い事務所の机の上をヒョイヒョイと飛び回っただけであっさりと攻撃をかわして逃走した。なんじゃい、それだけのことかいな?と侮るなかれ。脂肪率が低そうな千葉ちゃんならともかく、旭の、あの体格であの敏捷な動きは高く評価されて然るべきである。

 片目の運転手、出っ歯のせむし男、手品好きのキザな紳士、流しの歌手、ショボクレ探偵の多羅尾伴内、そしてものすごく濃いテイストの正義と真実の使徒、藤村大造まで、あの旭がこんな変装までしてくれるのか!と感激する一方、何を演らしても「やっぱり旭は旭だな」と納得できてしまうのもまた事実。

 旭さんが二代目・多羅尾伴内で良かった、脚本が高田宏治(「まむしの兄弟」)で良かった、監督が鈴木則文(トラック野郎シリーズ)でホントウに良かった、そしてこの映画はちゃんとヒットしたのである。

 ヒットしたらシリーズ化するのが東映のポリシーだ。ヒットの理由を「美女生き胴体切断、大流血」であるとトンチンカンな判断をしたと思われる東映は、こともあろうに次回作の監督を山口和彦(「怪猫トルコ風呂」)、脚本を掛札昌裕(「やくざ刑罰史・私刑」)という「エログロ」色の強いコンビにしてしまった。そして二作目はちゃんとコケたのだった。

1998年04月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16