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足にさわった女


■公開:1952年
■制作:東宝
■監督:市川崑
■助監:
■脚本:和田夏十
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:池部良
■トピックス:主題歌の作詞は池部良。


 作家と映画監督にはホモが多いのか?

 久々に休暇をとった刑事・池部良は、大阪から東京行きの特急列車の車中で、名うての女スリ・越路吹雪を発見し後を付け回す。同じ列車には作家(坂々安古)・山村聡が乗っていた。

 池部は越路にだまされて途中の駅で置き去りにされる。越路が落としたという時計を探して列車の下へもぐりこんだ池部。なんと列車はそのまま発車してしまうのだ。「これで手錠でもはめてれば千葉ちゃんかトニーカーチスだな」などと思っていると、これが特撮じゃないらしい。池部良、かなりマジである。本物ではないかもしれないが、なかなか迫力があった。もっとも、列車のスピードはかなり遅いのであるが。

 越路は途中で大荷物を抱えた老婆・三好栄子を助けてやったりしながら、熱海にたどり着く。ところが三好も越路の同業者、大ヴェテランのスリであった。無一文になった越路は自殺狂言で寸借詐欺を目論む。そこへ山村が通りかかる。越路のお色気にムラムラっとなった山村は旅館に越路を招待し金を貸してしまう。

 故郷の下田に帰った越路は戦時中に父親をスパイとして突き出した村の連中を法事の席に呼びつけて、罵倒しようと待ち構える。ところがみな歳老いてしまい、息子や娘を戦争で失った挙句に、越路の父親にした仕打ちを心から悔いているのだった。みな時代のせいだったのだと、復讐だけに生きてきた自分の人生がイヤになった越路は池部に逮捕してもらうことにした。「前科者を女房にしたら僕は刑事を続けられないんだ、困ったなあ」という池部良は「休暇中」を理由に逃げ出すのだった。越路は池部を追っかけ、山村もまた「君がいないと小説が書けないんだ」と言って越路の後を追った。

 この映画では普段、無表情と平板な台詞回しで鳴る池部良が「手錠のままの脱出」もブッとぶくらいの列車アクションを展開したり、持ち前の運動神経の良さ(でも野球オンチ)を生かして大活躍する。これにスパイ容疑で処刑された父親の復讐に燃える越路吹雪のモダーンでコミカルなエンタテイメントがからんだ、大変ゴージャスな一作。

 池部の溌剌とした都会的な芝居も刮目に値するが、他の意味で凄かったのは、オネエ言葉の山村聡である。あの押し出しと堂々たる体躯のオジサンが「そんなの〜ウソよ〜」などとシナを作るんだぞ、どうだ、驚いたか。顔は普通なだけにいつもの軍人役などを定番だと思っている観客にはかなりのインパクトである。

 多くの東宝のバイプレイヤーたちがひょこひょこ顔を出すので嬉しいのだが、やはり東宝映画のファンとしては越路の善意を踏みにじって財布を盗む婆さんスリ、または「砧の地縛霊」こと三好栄子の存在を忘れてはいけない。その顔は若い頃はともかく、この当時はすでに見事な「魚類」顔。そのギョロっとした瞳にうなされそうな存在感であった。

 女優名鑑によるとこの人の芸歴は気の遠くなるほど長い。が、映画の初出演は52歳、とある。つまりデビュー即、老け役だったのだ。東宝の文芸大作、メロドラマ、とにかく名だたる監督の当時の作品にはほぼフル出演である。市川崑監督にも気にいられたのか「プーサン」ではミス・ガンコ(越路吹雪)の母親役で起用された。こちらでもたくましくて自己中心的な大正世代の女性を演じて印象に残る。

 越路の血のつながらない弟・伊藤雄之助が、神出鬼没で味を出す。「僕22歳です」っていうSFな台詞に爆笑、たとえ真実だとしても。

1998年02月12日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-07-06