乾いた花 |
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■公開:1964年 |
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この映画に出ていた加賀まり子を知っている人は昨今、すっかり説教バーさんになってしまった彼女を見てきっと膝が笑うことだろう。言い換えれば慎太郎が都知事(2001年現在)になるくらいだから驚きもしないか。 刑期を終えて出所したやくざ・池部良は偶然入った賭場で、正体不明の若い娘・加賀まり子に出会う。加賀の刹那的な張り方に興味を覚えた池部は、彼女をアパートに誘って花札のサシの勝負をする。「もっと掛け金の高い賭場に連れて行ってほしい」という加賀の願いを聞き入れて、池部は弟分・杉浦直樹が仕切っている連れ込み宿へ加賀を連れて行く。博打の作法も手慣れたもので、加賀は見事な賭けっぷりを披露する。帰路、池部を車で送った加賀は「楽しかった」と無邪気に笑うのだった。 池部には昔なじみの情婦・原知佐子がいたが、無垢でどこか謎めいた加賀の魅力にとことん惹かれてしまう。ガサ入れがあった夜、池部は加賀を抱いて逃げ、情事の最中に見せかけて警察の目をごまかした。ヤレヤレと安堵した池部だが、加賀は「可笑しくてたまらない」とコロコロと笑う。宿からの帰り道、池部は組長・宮口精二の客分で香港人のハーフで薬物中毒の殺し屋・藤木孝に狙われる。 人気俳優・竹脇無我のマネージャー・伊藤久哉から、竹脇を対立している関西の暴力団の組長・山茶花究の興行に回すという連絡が入った。かつて池部が刺した男が所属していた組織の組長・東野英治郎は、すでに宮口と手打ちをしていたが、老獪な東野は「池部には貸しがある」とチクチク嫌味を言って、山茶花暗殺を宮口に持ちかける。 加賀が「刺激を求めて」麻薬に手を出し、おまけに藤木と付き合っているらしいと知った池部は、父親のように加賀を叱りつける。宮口に説得され暗殺を引き受けた池部は加賀を呼び出し「凄いものを見せてやる」と言って、加賀の目の前で山茶花を刺し殺す。池部が刑務所に入って2年、加賀は藤木に麻薬中毒にされた挙句に殺された。 ドライフラワーは見かけは美しいが、手に取って握りつぶせばバラバラになってしまう。加賀の美しさはまさに「乾いた花」である。その花を大切に懐を入れていたが、手放さざるを得ず、それをいとも簡単に狂犬に噛み千切られた池部にとって加賀の素性なんかどうでも良かったのである。生花からドライフラワーになる過程など知りたくもないのだ。 二枚目で明朗闊達でちょっとマヌケ、というのが東宝における池部良のトレードマークである。ところがこの映画では、五十路手前でいまさら恋愛でもないだろう、と割り切ってはいても、娘ほども歳の離れた女との恋を経て、ちょっぴり閉塞感を癒されるが、しょせん組織のために人を殺す定めから逃れられない、荒涼とした心理描写があまりにも見事で衝撃的であった。 池部良の偉大なところは何を演じても「色」が付くということが無かった点である。それを「無個性」だ「ダイコン」だと評する輩はチト了見が狭すぎるのではないか。個性的であろうとする事は案外、簡単なのだ。「汚れ」や「狂気」を演るのが「個性派」なんだと思っている観客がなんと多い事か。池部良はあくまでも美しくありながら、あらゆるジャンルの映画に出演しなおかつスターであり続けた。作り手の意のままに上手く染められる役者、それは簡単なようで全然、難しい。池部良、おそるべし! (1998年02月19日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16