裏街のお転婆娘 |
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■公開:1956年 |
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井上監督のミュージカル映画の中ではかなり真面目というかマトモなほうじゃないのか?マトモっても他のだってそれなりだけど少なくとも本作品はヘンじゃない。 本作品は貧乏な裏街の音楽家が孤児のために協力して音楽会を開催するという和製「オーケストラの少女」。元祖版の美少女ディアナ・ダービン役が江利チエミ。異論はあるだろうがここはグッとこらえよう。 信州の山奥からジャズに憧れて上京した娘・江利チエミが、実業家・菅井一郎の孫娘と勘違いされる。江利が世話になっている東京の貧乏な孤児院を慰問しに来る街の流しの若い衆・長門裕之、岡田真澄、フランキー堺らは、興行会社の社長・内海突破と組んで、孤児院存続のためにジャズレビューショーを開催すべく奔走する。 菅井の本当の孫娘・芦川いずみは孤児院を経営している未亡人の実の娘だった。菅井は息子が戦死した後、家風に合わないからと芦川の実母を実家に帰してしまった。これに怒った芦川が家出をして、孤児院に身を寄せていたのを、菅井の後援ほしさの内海が、たまたま居合わせた江利を孫娘と間違えたのだ。 孤児院の面倒をみていた放浪詩人・澤村國太郎に諭され、土建会社の社長や町の金貸し・森川信も損得抜きで孤児を助けるために立ち上がる。息子を失って傷心の菅井が、孤児たちと江利の素直さに心を開いて、レビューショーの支援を約束し、ついにショーの幕が上がった。 江利チエミを歌わせることが第一の目的である。江利のジャズのほかに映画に登場するナンバーは「9月の雨」。これを(おそらく吹き替えで)歌って踊っているのはフランキー堺。エンディングに繋がるショーのシーンでは、宝塚の新珠三千代、月丘夢路、シャンソンの高英男、「フランキーといえばブーちゃん」の市村俊幸も登場し、MGMミュージカル風のメドレーを歌う。フランキー堺はジーン・ケリーに体格だけはそっくりなダンスを熱演。 日本のミュージカル映画は総じてマヌケだ。唐突に歌い出す主役をボーッと見つめているか、なんとなくだらしなくリズムをとっている、という周囲の人物の演出が主たる原因だと思われる。日本人はこういうときに一緒に「ノリノリ」になるという習慣がないのだから仕方ないんだが、日活アクションの乱闘シーンで裕ちゃんに殴られる順番を中腰で待っている深江章喜のマヌケと近い。そう言えばあれも井上梅次監督だったな。 孤児と江利チエミが菅井を説得するために彼の豪邸を訪れ、吹き抜けの階段のところで歌を歌うシーンなんか、まるっきり「オーケストラの少女」で、仏頂面の菅井が、無愛想なストコフスキーの雰囲気まで丸々パクっていて笑える。 (1998年01月29日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16